異性からのプレゼントは花束が嬉しい。
その昔、女友達たちに話したら総批判を食らったことがある。好きな男からでも若干引いてしまうというのに、嫌いな男からもらったら即死モノだと口々にそう言うから、最上階スイートルームで100本の薔薇をもらいたいという具体的な、最大の夢を語るのはやめておいた。

私はこんなにロマンチストでドラマチックなことが大好きだというのに、シャンクスはロマンやドラマはもちろん女心の欠片すらも分かっていない。久々の陸デートが出来るっていうのにお昼を回った今もまだベッドで唸っているんだから。
戦闘で負傷したわけでもなく、二日酔いで。



「ほんっとサイテー」
「おーおー随分ご立腹だな!おまえも一緒に行くか!?」

茶化してきたクルーを見れば、酒樽を担いで浮かれ顔。ああ、きっと宴会でも開くのだろう。
ここは最高の気候、春島。オーロラフラワーという花が咲く樹木が名物だと聞いている。



「私はオーロラフラワーが見えるカフェのオープンテラスで静かにキャラメルミルクティーが飲みたいの」
「そりゃまた洒落てんな!楽しんで来いよ〜お頭が起きてくんのはいつか知らねェけどな!」


ガハハと豪快に笑いながら嫌味を残して去ってくクルーに今、飛び蹴りをかましてやりたい。
どいつもこいつも海賊のくせにロマンがない奴らばっかりだ!と思った瞬間この船で唯一の常識人が現れた。


「ベック!ねえカフェ行こうよカフェ!本でも読みながらのんびりしようよ!」
「行きてェところだがお頭そろそろ起きてくるんじゃねェか?お前と花見るんだって楽しみにしてたんだぜ」
「それなのに二日酔いか」
「まァいつものことだろ。・・・お、噂をすりゃあ」


ベックの視線を辿ると、いくらか頼りない足取りで歩いてくる待望の姿が。



「シャンクス!大丈夫?」
「悪かったな、大丈夫だ」

ついつい気遣いの言葉を掛けてしまう。私ってば何だかんだ言っても優しいんだから。



「降りてみようか。カフェ行って花見ながら、なんちゃらミルクティー飲むんだろ?」


その言葉と笑顔だけで、さっきまでの私の怒りはあっさり消えてしまうんだ。一緒に船を降りてシャンクスの右手を掴んで。他愛もない会話をしながら、ゆったりという言葉がよく似合う歩調で私たちは道を進む。
しばらく歩くと、虹色に輝く花が咲いた樹木が盛大に並ぶ海岸沿いに出た。それはそれは美しい花びらの色は、雲ひとつない抜けるような青空によく映えていて圧巻の景色。




「見てシャンクス!素敵!」
「おーこりゃ凄いな!楽園みてェだ」
「あそこにベンチあるよ!ちょっと座ってのんびりしたい!」

カフェはどうしたよ、なんて苦笑するシャンクスを気にも留めない。
砂浜で遊ぶ小さな子どもとその母親。大型犬を連れてランニングに励む青年や、私たちのように散歩を楽しむ恋人たち。それらを華やかに演出するのは、やはりオーロラフラワーの存在だ。



「気持ち良いーずっとこうしてたい」
「なー。このまま昼寝してェ」
「まだ寝るつもり?!」
「いやいや、冗談だって!」


こんな場所に来てまで小さな言い合いをしていると、目の前を腰の曲がったおじいさんがゆっくりと通り過ぎようとしていた。数メートル後から同じように腰の曲がったおばあさんが、これまた同じような足取りで歩いている。
私たちの真正面でおじいさんは立ち止まって後ろを振り返り、ようやく追いついてきたおばあさんに自然な形で手を差し出した。
空いた片方の手で「見ろ。また綺麗に咲いたもんだなぁ」と美しいそれを見上げる二人の顔は強い紫外線、きっと水面に反射したそれを長年浴びたのであろう形跡がそこらじゅうにある。



「・・・おれたちの大先輩だな」
「そうね、素敵」

皺だらけの顔はきっとたくさんたくさん、笑いあったのだろう。二人の姿は、咲いた花よりも澄んだ空によく映えて美しい。



「おれ達もこんな風にずっと一緒にいよう。ってことでコレ」
「なに?」

握った手を差し出され、反射的に手のひらを見せた。シャンクスの元から落ちてきたのは品のあるダイヤが埋まっている華奢なリング。
驚きすぎて何も言えずにいると、シャンクスが続ける。


「海賊だから、特別な手続きなんてモンはねェけど」

これでケッコンてことにしねェか?


何年も隣で見てきたいつもの、私が大好きでやまないその笑顔。未だに言葉が出てこないから、それを握りしめてシャンクスの首に思いきり腕を回した。
やっぱり花束なんて無くてもいいもんだね、彼女たちにそう手紙を書いて伝えなければ。


ドラマチックじゃなくても
きっと世界一あたたかい日常がある


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