Holy night?
No, Glittering day !






Dec22,10:06

“世界一大きなクリスマスツリー”
なんの捻りもない見出しに添えてあった写真には、それはもう世界一大きそうなクリスマスツリーがスーパーモデルのように堂々とポージングをきめていた。
このイベントを利用して恋人同士なにかをする事にはあまり興味がないけれど、浮かれ気分の世界や人々を見るのは結構好きだったりする。もうそんな季節か、なんて月日の流れを染々感じながらページを捲ろうとすると、その音に反応したベポがスーパーモデルにも反応した。


「わぁすごい!これってどこにあるの?」
「んー・・・あ、マリージョアだって」

たぶん、一生行けない場所。
大声で不満をあらわにするベポに苦笑しながらぎゅ、とハグを贈る。今はこれしか出来ないけれど、次の島でツリーの一つでも買ってプレゼントしようかと考えながら船内へ戻る途中、そばでクルーと談笑しているローに新聞を手渡すと意地の悪い顔で質問をしてきた。


「ベポの機嫌を損ねたのは誰だ?」
「マリージョアにある世界一大きなクリスマスツリー」
「ああ」

賢い彼にそれ以上の説明はいらない。
紙面を捲りながら、如何にも女子供が好きそうだなと言うローにベポは女子供じゃないでしょ、とやんわりお咎めのセリフを。


「・・・どうしたい?」

主語がなくても通じるのは私の読みが冴えてるからなのか、または似た者同士だからなのか。はたまた一緒にいる時間の長さが関係しているのか。
今のには間違いなく“クリスマスは”が付く。


「知ってるでしょ。自分のことになると関心がないの」
「最高にいい女だな」
「それ楽な女の間違いね」

あ、でも、ゴールドでギラギラしてる何かをくれるっていうなら貰ってあげてもいいよー。わざと不自然な笑顔を作るとローも敢えて不自然な笑顔で「最高に嫌な女だな」と対抗してくるから、最高の部分だけを頭の中で切り取って残すことにした。





Dec25,06:10

未だ眠るローを跨いでベッドから降り、サイドテーブルに置かれたライターと煙草を握り締める。ルームウェアのまま甲板に出て煙を流し込むのは朝の日課で、空と海を眺めながらのそれははっきり言ってローから朝イチでキスをもらうより目が覚める。
言ったら絶対にバラされるから内緒だけど。


「え、なにこれ・・・!」

甲板に出て驚いた。先日のマリージョアのものには遠く及ばないけれど、それでも通常よりは遥かに大きなモミの木がマストより目立って堂々と構えている。丁度昨日からこの船は島に停泊中ということを考えたら、きっとローがベポのために用意したサプライズだろう。そういうところが大好きで堪らない。


「ベポ喜ぶだろうなあ・・・」

自然と綻んだ顔で煙草に火を点け、豪華に飾り付けられたそこにゆっくり近付く。
先端には星ではなくクリスマス・エンジェル、光沢のある球に赤と白の縞模様のキャンディーケイン、金や銀のモールにベルやリボン、雪を模した綿といったかなり一般的な装飾なのにツリーの下には綺麗にラッピングされたプレゼントなんて可愛らしいものは一つもなく、豪快に置かれた酒樽と宝箱から溢れだしている貴金属。
そのギャップが可笑しくて、しかもあのクルー達が一生懸命セッティングしただなんて更に笑える。

それにしてもよくやったなーと感心しながら改めて全体を見てみると、ちょうど同じ目線にオフホワイトの紙を見つけた。ううん、カードだ。ここに一つきりしかないのを見たところ、ツリーを飾るただのオブジェには見えない。手にすると表には見慣れた字体で私宛てだと分かる名前が書かれていて、中を開くと。


“A Merry christmas to you”


・・・どうしようものすごく嬉しい。
緩む口元を少しだけ引き締めて、後ろの気配に話掛ける。


「ベポのためにじゃなかったの?」
「ベポとお前のためだ」
「だから私なにも聞かされてなかったんだ。ありがとう、ロー」
「まだ終わりじゃない。今夜8時から空けておけよ」
「なに、これ以上のサプライズがあるの?」






Dec25,20:26

12月25日午後8時、船は静寂に包まれていた。
ローがやりそうなことは大体見当がつく。案外ロマンチストなところがあるから、未だ船に構えるツリーに負けないよういつもより豪華に着飾って部屋を出ると見張りのクルーとばったり。


「ポーカーで負けたのね」
「まーな。でも今日は交代制になってっから」
「うっわそれでも可哀想」
「おれを茶化す暇があるなら早く船長にその姿見せてやんな。綺麗だ」
「ありがと。メリークリスマス」
「おお。メリークリスマス」

船を降りると迎えが来ていた。知らない顔だけどきっとローが回した人物だろう。
着いた先は島一番の高級ホテル。感じのいいオーナーにダイニングへ通されると、貴族の暮らしを彷彿とさせる煌びやかなそこには全く似合わないハートの海賊団一味の大宴会が行われていた。そのなかでただ一人、普段よりシックに着飾ったローがいてそっと歩み寄ってくる。


「やっぱり最高の女だったな」
「ローも素敵。でもアレに混じったら私達が浮いちゃう」
「いいんだ。お前には別の場所をとってある」
「そこで二人きり?」
「当然」
「誰と?」
「おれと」
「何するの?」
「お前が望むこと、何でも」


分かりきったやりとりにひっそり笑い合う私達はもう違う世界にいた。クリスマスなんて興味ないとか思ってたけれど、心から愛する人達とこうして楽しく過ごせるなら案外悪くない。

まずはお決まり、グラスを傾けよう。
海賊の私達が大好きな、ゴールドでギラギラに輝くシャンパンを注いで。



Thanks/Rosen†Leben
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