「じゃあまた明日ね!おやすみ」

明日、といっても日付がとっくに変わった深夜。サッチの部屋を後にする私を含めたクルー数人は挨拶をかわし各々自室へと戻る。
私はアルコールで火照った体を冷ますべく自室を素通りし、甲板への扉を開いた。


「こんな時間に何事だよい」
「わ、びっくりしたーマルコか。サッチの部屋で皆で飲んでたの」

ポケットを探ってもライターが見つからない。多分サッチの部屋に忘れてきたのだろう。
貸して、と言う前にマルコは火が灯ったそれを差し出してくれた。


「ありがとう」
「お前はほんとによく飲むなァ。オヤジにそっくりだよい」
「褒め言葉をどうも。マルコこそこんな時間に何してんの?」
「目が覚めちまってな」
「・・・おじいちゃん」

呟くと、くわえていた煙草をひょいと取り上げられた。恩を仇で返すのか?という事だろう。
皮肉な笑顔が私を見下ろしていたので、ごめんなさいと素直に謝ると無骨な指に挟まれたそれは元の居場所に戻った。
暇つぶしなのか、手に持ったコインを指で遊ぶマルコに私は懲りもせず憎まれ口を叩く。


「私マルコって嫌い」
「また唐突だなァ」

嫌いは大袈裟だけれど、気が強く我が儘な私にマルコの性格は理解し難いとずっと思っていた。
すべてを悟っているようで、物分かりのいい優等生。年齢を考えれば当然の振る舞いなのかもしれないけれど、いつも自分のことを後回しにしてしまうマルコを見ていると時折不安になってしまうのだ。


「ねえ、そのコイン投げてみてよ」
「これを?」
「裏表当てたら、マルコの弱味いっこ教えて」
「おれの弱味ねェ・・・」

考えるように顔をわずかに上げ、直後コインは小気味の良い音を立てて舞い上がる。手の甲に収められるまで、実に綺麗な身のこなしだった。


「表」
「いいのか?」
「女に二言はない!」

お披露目されたコインは見事に表。

「やったあ!私のっ、」

勝ち。さあ早く弱点を教えるんだと急かすより先に、目の前の影が視界を覆いふわりと私の唇を奪う。
勢いよく迫ってきたわりに包み込むようなやさしい口づけは酔いを覚ましてくれて、なにかの童話じゃないけれど深い眠りから目覚めような感覚に陥った。


「おれの弱味はお前だよい」
「・・・え?」
「さっさと部屋に戻って寝な。これ以上一緒にいると何もしない保証はねェぞ」
「ど、どういう意味・・・」

逃げられると追いかけたくなるんだよい。そう大人の余裕とやらを振りまくマルコが、私はやっぱり嫌いだ。それに、そう言う奴は大抵いざこっちが追いかけると逃げるのを知っている。
マルコ、あなたもその大抵の部類になるのかは今の私には分からないけれど、これだけははっきりしている。

私は今、マルコをとても追いかけたい気持ちになっているということ。



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thanks/ミザントロォプ
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