不夜島。夜がこない場所で生きているというのに私の人生はいつだって闇に支配されていた。
自分の環境が異様だということに気づき始めたのはいつだったか。なんとなく嫌だと思ったけれどなにが悪いのか、なにを恨めばいいのかは分からなかったから考えることを諦めた。諦めたら闇はもっと色濃くなった。ほんの少しの足掻きとばかりに、自身は明るい人間でいようと努めた。そうすれば、いつかこの闇を打ち消せるんじゃないか。
そんなぼんやりとした希望を持っていたんだと思う。


「おう、今日は破廉恥な服じゃねェな」
「昨日パウリーさんがあまりにもがうるさかったんで」
「ったりめーだろ!男の職場でまったくよォ……まあ今日も頑張れよ。何かあったら遠慮なく言えな!」
「ありがとうございます」

「パウリーさん。先日話した納期についてなんですけど、」
「あー待て。お前おれと歳同じだったよな?」
「え?ああ、はい」
「そろそろ敬語やめてもいいんじゃねェの?なんつーか……アレだ、仲良くしようぜ!」


初めての長期任務で出会った男は太陽のように眩しく、なんて綺麗な男だろうと思った。
無精髭もあるし言葉遣いも悪い。けれど豪快にまっすぐ笑う姿だったり、屈託ないその性格を際立たせるような金色の髪だったり、彼のあらゆるものは光にあふれていて私の目を眩ませた。
もう帰りたい。潜入二日目でそう嘆いた私を当然ルッチは咎めた。だってあんなのを毎日見ていたら自分も仲間も、私を取り巻くすべてを恨んで嫌いになりそう。
そう思ってなるべく関わらないようにしていたのに、気付けば距離は縮まりいつもそばにいて軽口を叩き笑いあっていた。


「飲め飲め!今日は奢りだ!」
「ヤガラレースで勝ったの?」
「おうよ!こんなめでてェ日は仲間とパーッと騒ぐに限る!」
「騒ぐ前に借金返しなよ」
「そんな細けェこと気にすんなって!ほら飲め!」

「おい顔色悪ィぞ。無理すんな」
「んー……でも今日は商談があって、」
「ンなもんおれが代わりに出るから。早く帰って休め。な?」
「じゃあ悪いけどお願いしようかな……」
「おう、困ったときはお互い様だ!早く帰ってあったかくして寝ろよ」

「いやァ納期ギリだったけど必死ンなった甲斐があったな!」
「そうだね。徹夜で頑張ったもんね!」
「おうおう、客の喜びよう見たか!?」
「見たよ!すごく喜んでた」
「だろ?俺はあの顔が見たくて船大工やってるって言っても過言じゃねェ!」


どんなに明るく振舞おうと、どんなに明るい人間がそばにいようとこの闇を打ち消すなんて到底無理だと理解するのに五年も掛かった。
月と太陽が決して相容れないように闇と光もまた同じ。世界が、違う。隣に並び続けることはできないのだ。





「今までお前らを本当に“仲間”だと思ってた!!」

私がどんなに焦がれても決して手に入らないそれを持つ男は、最初から最後の瞬間まで。どこまでも美しく気高かった。
出会ったあの瞬間から眩しくて眩しくて。他の皆は上手く目を逸らしたようだけれど、馬鹿な私は眩しさのなか懸命に目を凝らして見つめてしまった。その光に何度憧れただろう。何度救われただろう。何度手放したくないと思っただろう。何度、時を止めてと祈っただろう。

私の希望を捨てる代わりに願わせてほしい。
どうか彼に。沢山のあたたかくてやさしいものが降り注ぎますようにと。


The Darkness and light
汚れた闇が美しい光を羨まない日は
一日だってなかった



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