時刻は日付が変わる頃。
そろそろ交代の時間だ、と部屋の前で響いたクルーの声に返事をした後、厨房から軽食と飲み物を取って見張り台へ上がると見慣れた姿が1人。初めのシチュエーションに少し違和感を覚えた。


「サッチ?一緒に夜番なんて珍しいね」
「おー、おまえとだったのか。何気に初めてじゃねェか?」
「そうかも。寝ないでよね」
「こっちのセリフだっての」

そう言いながら「はいよ」とブランケットを渡してきたサッチ。自分が使っていたのに、戸惑いなく私にくれるその心遣いが嬉しい。見かけによらず意外とモテるのは、こういうことを自然にできるからというのも1つの要因だと思う。
お礼を言ってふわり、膝に広げたやわらかいそれは、石鹸の香りに混じってほんの少しだけサッチの香りがするような気がした。

見張り中は、海を眺めながら他愛もない会話をひたすら繰り広げて過ごすしかない。先日上陸した際の出来事や、父やクルー達の話、本当に些細な会話だけれど、無理やり捻り出しているわけではない。何せ私たちは家族なのだから、沈黙さえも心地の良い気楽な関係なのだ。
ただ、その沈黙があまりに気兼ねないのは難点でもある。
気兼ねがなさ過ぎて、眠気に襲われてしまうのだ。

日の出前の、空が薄明るくなる夜明け頃が1番辛い時間帯。


「ダメだ。眠いわ・・・」
「昼間寝てなかったの?」
「いやー寝ようとしたんだけど、ビスタの野郎に起こされちまってよォ。そこから寝れなくなった」
「私ここ来る直前まで寝てたし、大丈夫だから少し寝てれば?」

それか、もう交代の時間まで長くもないんだから部屋帰りなよと促したものの、頑なに拒まれた。


「まったく、変なところで気を遣うんだから」

反応はない。
見てみると、まさにウトウトという表現がぴったりなその姿に思わず笑みがこぼれ、なんとなく構ってみたい願望が芽生える。

「サッチ」
「んー・・・」
「好き」
「・・・・・・なにが」
「ずっとサッチが好きだった」
「・・・・・・・・・は、」
「言う機会なかったから」
「・・・ちょ、どういうことだよ」
「どういうことって、そういうこと」

だんだんと会話の意味を理解してきたのか、閉じかかっていた瞼が完全に上がって目を丸くするサッチ。


「え、お前がおれを・・・!?」
「うん」
「おいおいおいおい何の冗談だよハハ!」
「しつこいな。なに、嫌なわけ?」
「ばっ!!ンなわけねェだろ!」
「目、覚めた?」
「はぁ!?やっぱ嘘かよ!!」
「嘘じゃないって。本当だよ」

何度も同じような会話を繰り返していると、早めに朝食を済ませた交代クルーが上がってきた。私たち(正確にはサッチ)の只ならぬ空気を感じて「なんだ?何かあったのか?」と不思議そうにして、サッチは大慌てで何も無いと言い張って。
2人で見張り台から降りると、ほんの少し顔を赤く染めたサッチが気まずそうな、不貞腐れたような表情をしているから笑えてくる。


「・・・いつまで笑ってんだよ」
「だって、予想通りの反応するから可笑しくって」
「いきなりっ・・・!その・・・なんだ・・・好き・・・とか言われたらビビるだろーが!」

いつもエースと揃って皆の中心にいて、この船を明るく照らしてくれるこの存在。分け隔てなく誰にでもフランクに接し、豪快に見えるその性格も実はあのマルコと同じくらいの気遣い屋で。
そんなサッチを特別に想ったのはいつからだったか。
特に伝えるつもりも隠すつもりもない感情だったけれど、言ってみて正解だった。悪い気分ではなさそうだし、面白い反応も見れた。


夜が明けたらさよならなんて
つまらないじゃない?


「そんなに驚かないでさ、朝ご飯でも一緒に食べようよ」
「なっ・・・!今のんびりそんなもん食ってる場合かよ!マルコォ!!マルコ起きてるか!!」
「動揺しすぎ。なんでそこでマルコなの」

thanks/誰そ彼
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