胸に秘めた恋。
恋を胸に秘める、なんて私には到底無理な話だ。黙っていられない。黙っていたことがないから分からないけど、そんなことしたら多分頭が参ってしまい熱が出るとか最悪爆発でもするんじゃないか。
周りにはもちろん、本人にもその熱意と感情は包み隠さず伝えてしまう。


「イゾウイゾウ。今夜一緒に飲まない?」
「他は?」
「え?」
「他のメンバーは?」
「や、二人で」
「あのなァ。おれはお前さんの相手してるほど暇じゃないんだよ」
「こんなに好きなのに酷いよほんと・・・!」
「惚れた腫れた騒いでるヒマがあるなら鍛錬でもしな」

イゾウがいることで鮮やかになっていた景色がぼんやりとつまらないものになり、その空席を眺めながらひとり落胆。アーとため息混じりの声をこぼしてテーブルに突っ伏すと、タイトスカートからすらりと伸びた脚が視界に入りイゾウとはまた違う鮮やかさに染まる。

「事務長ー・・・!」
「その呼び方はしなくてもいいってば」
「あ、良い香り。新しい香水?」
「そうよ。それよりまたイゾウのこと?」

美しくて頭も良く、いつもいい香りのする彼女は白ひげ海賊団の事務方トップであり、私のよき相談相手。血は繋がっていないけどクルーは皆家族。彼女は私にとって最高の姉だった。

「本当イゾウってさ、私にだけ素っ気ないっていうか扱いが雑っていうか。他の子には紳士なのに」
「それ多分、照れくさいだけ」
「いや、鬱陶しいと思ってるね絶対。もう諦めるべきかなー」
「嫌だ、やめろってはっきり言われたことある?」
「うーん・・・それは無い」
「じゃあ心配ないよ。そのままでいたら?」

綺麗な笑顔の横でダイヤのピアスが揺れる。
私もこんなふうに大人で気高く美しかったら、少しは相手にされただろうか。駆け引き知らずで突っ走るばかり。例えるならそれはダイヤのピアスより少年帽が似合うというか。まあ無いものねだりをしても意味がない。足りないものなんていくらでもあるし、それをご丁寧に数えて人と比べても落ち込む一方だ。
私は私のやり方で、持っている最大限のものをフル活用して伝えるのみ、これに尽きる。開き直りと言われたらそれまでだけど。





「イゾウ!」
「ん?」

会話こそすれば扱いは雑だけど。声で私だと気付いてるはずなのに、嫌な顔ひとつせず優しい声色で返事をくれ、視界に入れてくれる。私はその一瞬がたまらなく嬉しくてイゾウのことが本当に好きだと強く思わずにはいられない。少しでもそこに映っていたくて、欲を言えばずっと私だけを映してほしくて。

「おはよう、今日も好き!」

あーハイハイ分かったよ。とお決まりの言葉が続くと思っていたのに、沈黙が訪れるから心臓が凍りついた。
只ならぬ空気。ついにはっきりと拒絶されてしまう日がきた、と心構えをすると同時に事務長、ナースの皆、彼女たちが今日暇なことを祈った。


「・・・お前さんは・・・」
「・・・・・・う、ん」
「傷ついたりするのが怖くないのか?」

予想外。呆れ笑いを浮かべているのを見て、緊張の糸が少しゆるむ。


「えーっとね、うん、怖い。今イゾウにはっきり、おれはお前さんが嫌いだ。迷惑だ、とか言われるのかと思ってすっごい心臓バクバクしてるし」
「じゃあなんで、」
「分かんないよ。言いたくなっちゃうの」

傷つくのが怖くて何も言い出せないっていうのは、きっと相手より自分のことが好きなんだと思う。それは良い悪いの話ではない。自分を守りたいと思うのは自然なことだ。
それでも私は。

「私は、自分よりイゾウが好きなの。それだけ」

笑ってみせると、斜め上にある目がまるく見開かれた。
また訪れた沈黙に今度こそ拒絶されるかと思いかけたとき、すくい取られた手。

「まいったな・・・お前さんの勝ちだ」

額にもう片方の手を当てながら呟くイゾウを見て、今度は私が目を見開いた。


甘やかに満ちてゆく世界の中で、
繋がれた指先に幸せは宿るのだろう



thanks/冬ちゃん宅の長編主人公、勝手にサプライズ出演(笑)
thanks/fugue
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