あなたにあげたい私の心臓


これは秘密の恋。
決して誰にも知られてはいけない、甘くて愛おしくて少し切ない恋。

ねえ、ロー。そんな風に呼びかけた瞬間だけは、ローの瞳を独占していると思うと感情が高ぶって、このまま時が止まってしまえばいいなんて笑っちゃうくらい安い言葉がぴったり当てはまるんだ。
好きだと言えたら、どんなに楽か。でも言ったところでメリットはたったの1つ。私の気持ちが楽になるだけで、他には何も無い。どうしたらそんなことを言えるだろうか。


「おいどした?食欲ねェのか?」
「げっ、シャチ。いつの間に来たの」
「なにその扱い。食わねェならおれがもらうぞー」

ここ最近テンションが上がらないのは、多忙なローとまともに会話をしていないから。用も無いのに邪魔をして、鬱陶しがられたりしたくない。でもコミニュケーション不足もイヤ。そんなの待つしかないってことを分かっているのに、どうしたらいいんだろう、なんて悶々としているうちにストレスが溜まり、疲れていく。そんな笑える一人芝居を私はローに出会って何度繰り返しただろう。
恋をしていたら、まぁよくある話なのかもしれないけれど私にとっては、こんなに誰かを好きになって、頭の中が他人でいっぱいになるのなんて正直初めてだから。
ローはこれまで、誰かを好きになったことはあるのかな。どんな恋をしてきたのだろう。


「何回目のため息だよソレ」
「なーんか元気出ないの。こう・・・精神的な感じの元気」
「はあ?ワケわかんね」
「いいよ、分かんなくて」

「お前ら何食ってんだ?」

待ち望んでいた声に心臓が跳ね上がる。
咄嗟に見上げようとすると、頭のてっぺんに大きな手のひらの感触。そのままガサツな手つきでひと撫でされて。
服が触れる距離で隣に座ったローに、この心音が伝わってしまいそう。

ねえ、私の気持ちに気付いていて、からかってるの?それとも無意識?
ローってば本当分からない!こんな風にさせるならいっそ、その能力で心臓を取ってよ!


「しょうが焼き!ウマいッスよ!それよりなんかコイツ元気が出ないーとかガラにもなく言ってるんスよね」
「元気あるから!勝手なこと言わないで」
「はァ!?だっておまえ、」
「ねえねえ、ロー、次の島着いたらどこに行く?」
「そうだなァ・・・」
「私行きたいとこあるんだけど、そこ絶対ローも好きだから一緒に行こうよ!」
「ちょっ、なんだよその変わり様・・・!」


ローが与えてくれるたったひとつの小さな小さな出来事で、私は頭を抱えたり戸惑ったり嬉しくなったりする。
本当は、もっとそばに寄りたくて。好きだよと言いたくて仕方がないのだけれど言えない。
こんなに臆病な海賊が自分の船に乗っているなんて、ローは思ってもいないだろうな。


thanks/サンタナインの街角で
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