静かな夜はどうも感傷的になってしまう。
研ぎ澄まされた空気は心に閉じ込めていた感情を抉り、そこから鋭い痛みがじんわり、そしてまっすぐ心臓へ届き体全体に広がっていく。
その痛みに思い出をほんの少し乗せれば、涙となって外に零れだすことを私はよく知っているから日頃は思い出を追い払うというのに今日に限ってコントロールが効かない。
つい先程のことのように浮かび上がるそれはとても色鮮やかで、いとおしくて、美しい。
次々零れ落ちるものを拭いもせず、ただただその痛みと美しさに身を委ねる。


「癒えねェか?」
「癒えないね。マルコは?」
「同じだよい」

いっそ開き直って、思い出話をしてみようか。

「ねえ、覚えてる?私がサッチの降ろしてる髪を見て褒めたら、」
「一ヶ月くらいずっと降ろしてたことだろい?」
「あははっ!そうそう、サッチは本当単純だよね」

「エースは本当に懐っこかったなァ」
「みんなの弟!って感じね。あの笑顔に弱かったなー私」
「ナースたちも寄ってたかって可愛がってたなァ」

「そうだ。おやじの弱点知ってるか?」
「えっ、なになに知らない。教えて!」
「誰にも言うなよい。実は・・・」
「・・・・・・えー!!嘘!でもやっぱり、うん、かっこいい。さすがだね!」

私とマルコの盛り上がりに誘われ、次々と仲間が集ってくる。いつのまにか誰もが、あのマルコまでもが涙しながら大笑いして静寂に包まれていた夜は容易く宴会に変わった。

この傷は癒えなくて構わない。共に在ったことを強く教えてくれる痛みだから。



上手に泣けない僕たちは

三人とも、心配はいらないよ。あなたたちと私たちが愛したあたたかいこの場所は、確かに此処にある。
もう二度と触れられることのない存在、過去も現在も未来も変わらずそのすべてを愛しながら、今日もこの海を生きていこう。


thanks/たとえば僕が
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