とある週末の夜。
男友達と飲みに行く気分にもならず、隣に住んでいる彼女でも誘おうかと思って帰宅したのはいいがあいにくの留守。まあ仕方ない、とひとり照明を落とした薄暗い部屋で自慢のプロジェクターを起動させ、話題だったSF映画を鑑賞しているときだった。玄関の方で突如大きな音が鳴ったような気がして思わず音量をオフにし耳を澄ませると、確実に聞こえてくる不自然な音。
エイリアンでもいたら、なんてくだらない事を思いながらモニターを付けると、そこには隣の彼女が。柄にもなく心臓を跳ねさせながら慌てて玄関に向かう。


「何事だよい」

冷静を装わなければと思ったが、逆に冷たく聞こえてしまっただろうか。
いや、そんな心配をする必要はなかった。彼女はおれの顔も見ずに雪崩れ込んできて、靴を脱ぎながら訳の分からないお喋りを始めたのだ。

「お、開いた!良かった!友達がこの前会社の倉庫に閉じ込められたって言ってたから、私も同じ目に遭ったかと思っちゃったよ!まあ私の場合は外に締め出されたって感じかな。あはは」

一瞬、ここはおれの部屋ではなくNameの部屋だったのかと自分を疑ってしまうほどナチュラルな行動。唖然としているうちにNameはリビングへと進み、ソファに身を投げたところで察しがついた。
だいぶ、酔っている。
突っ伏しながらまだ何かペラペラと喋る続けているが、どうしたものか。

「……Name、大丈夫かよい。酔ってるよな」
「私?酔ってないよ。大丈夫!」
「水飲むか?」
「お酒、ちょうだい」
「馬鹿言うなよい。水だ水」

隣に座って、ミネラルウォーターを注いだグラスを手渡す。酒には強いように見えたが、そうでもないのだろうか。それともとんでもない量を飲んだのだろうか。どっちにしろ無事に帰ってきたのが奇跡に思える。
中身が半分ほど消えたグラスを手渡してきたNameは、さっきまでのお喋りは止まりそのままうつらうつらし始めた。
音のない薄暗い部屋。少し乱れた髪と、程よく開いた胸元から見え隠れする谷間。スクリーンが放つ灯りに照らされたその姿は妙に艶っぽく、必死にならないとそれこそ理性が雪崩れのように落ちてしまいそうだ。


「……Name、」
「……んー」

おれの膝を枕にして寝転がったNameは、人の気も知らずにあどけない寝顔を見せ始めた。
抱きかかえれば部屋まで送っていくことは容易いというのに。
せめて照明を明るくしても良いだろうに。
この状況を打破する方法は幾らでもあるというのに、何ひとつ実行しようとしないおれは最低だろうか。
足に掛かる重みはとても心地が良く、不思議と心が穏やかになる。そういえば新しい恋と言っていたが、この気持ちは恋に当てはまるのだろうか。定義はよく分からないが、他の誰かが隣の部屋に出入りをすると考えると堪らなく気分が悪くなるから多分そういうことなんだろう。

身動きひとつ取らず、ただただ真下にある顔を眺めていたらいつの間にかスクリーンにはエンドロールが流れていた。自分もこのまま眠ってしまおうと決め込んだ時に、タイミング悪くテーブルに置いていたスマートフォンがメッセージ受信音を響かせた。思わず下を確認すると、Nameは身動ぎをしてゆっくりと瞼を開いていく。起こしてしまったようだ。


「……ん……」
「悪い……起こしちまったな」
「んん……?」
「気分はどうだ?大丈夫かよい」
「マルコさん?!なんでいるの?!」
「あー……なんつーか、こっちの台詞だよい」

ハッと起き上がり、みるみる青ざめていく様は見ていて可笑しくなる。


「どこまで覚えてる?」
「え……っと、結構酔っちゃったけど無事帰れたーってタクシー降りながら思ったところまで、覚えて、る……!」
「その後ここに来たんだよい。ノブ回してたから間違えたんだな」
「ごっ、ごめんなさい!!あの、私全然覚えてなくて、」

ここまで耐えたのだから、ちょっとからかってみても良いだろう?


「あの、普段はこんなことしないの!本当にっ!」
「おれには気を許してるってことだろい?」
「え!?あ、それはそうなんだけど、でも、」

腕を掴んで、組み敷くように寄っていくとNameはすぐさま体を硬直させる。


「うわ、なに!?」
「女の子なんだ、もっと警戒するべきだよい」
「分かった!分かったから、ちょっと……!」
「おれが何もしないとでも思ってるか?」
「やっ、待ってマルコさん……!あのね、私ね、マルコさんのことがっ、」
「冗談だよい。おれはそんな卑怯な真似はしねェ。驚いたか?ははっ」

何てことだろうか。
「私マルコさんのことが」の先を読んでしまった。
まさかこんな状況で口にさせるわけにはいかず、咄嗟に言葉を遮ったが不自然に思われてしまっただろうか。

「Name」
「……はい」
「部屋戻って寝ろよい」
「あ、うん、迷惑掛けちゃって本当にごめんなさい……」
「いいって。まァそんなに悪いと思うなら今夜付き合ってくれねェか?」
「え?」
「飲みてェ気分なんだ」
「あ、うん。時間は?」
「いつもの時間、いつもの場所で」

勘違いでないことを祈って、賭けてみるか。


to be continued.
thanks/抗生物質

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