I can never give up on you.

スタイル抜群の二人が並んでいると、とても画になる。
もっと愛想があればいいのに、なんて言おうものなら余計なお世話だと返されるに違いない。


「ルッチ、ロー、社長からこの書類預かってきたから目を通しておいて」

書類を受け取ろうともせずに2人はじっと私を睨んだ。

「え、なに」
「・・・」
「・・・」
「何か言ってよ!怖い!」
「マルコと昼飯に行ったのか」
「え?」
「サッチから聞いた」
「ああ、この前のこと?行ったけど」
「「チッ・・・」」
「二人して舌打ちハモるとか気持ち悪いんだけど!なんなの?!」
「うるせェ。おまえ危機感ってもの持ってんのか?」
「危機感?!なにが?!」
「おれにはお前が一番危険に見えるがな。ロー」
「黙れ鳩」
「あーもう二人してやかましい!こんなジメジメしたとこいられない。とにかく書類見といてよね」

あんたらみたいなのがいる、この会社に危機感を持て!と怒りながらその足で喫煙所へ向かった。
すると何てことだろうか。煙草を吸うマルコさんと、女子社員の2人が並んでお喋りをしているではないか。
正しく説明すると、一服するマルコさんについてきたという雰囲気。


「お疲れ様です」
「お疲れい」
「あ、Nameさん。お疲れさまです!それで続きなんですけど、」

二人がいる奥から一番離れた、入り口近くで足を止めて煙草を取り出す。
私に構わず話を続ける彼女は、確か経理に所属する2年目の子だ。ふんわりした雰囲気でまさに「女の子」という言葉がぴったりの、若くてとても可愛らしい子。
多分、感じているのは私だけだろうけどこのシチュエーションはちょっと気まずい。
まさか出て行くのもわざとらしいので、仕方なく咥えたそれに火をつけ用もないのにポケットからスマートフォンを取り出した。たまたま目に入ったニュースアプリを起動したらトップニュースに、大物カップルの誰と誰がついに結婚!なんて上がっているけど今の私はそんな事どうでもいい。

耳から聞こえてくる高めの声に全神経を集中してしまう。


「それで、良かったら今度2人で行きませんか!?すごく美味しかったのでマルコさんにもぜひ食べて欲しいんです!」

ディスプレイを無駄にタップしていた指が止まった。
待って待って、話の流れよく分からないけどこれって食事のお誘いだ。最悪のシチュエーションじゃない?ていうか仮にも私というか先輩の前で、顧問弁護士を誘うなんてすごい度胸だ。最近の子は大胆というか・・・いやいや、んなことよりマルコさんの返事は・・・
いろんな感情が一瞬にして頭を駆け巡る。


「そりゃ気になるねい。だが2人だとなァ。誤解されたくない相手がいるんだよい」
「え?もしかして彼女さんとか、ですか・・・?」
「まぁそんなところだよい」
「やだ、私ってばごめんなさい!」
「いいよい。こっちこそ悪いな」
「じゃあ機会があったら、皆さんと一緒にっていうことで!あ、そろそろミーティングの時間なので失礼しますね」

目の前を足早に通りすぎる彼女をよそに、私は愕然とした。
先日は浮かれて何も考えずにランチに付いていったけれど、そもそも何を考えているのか分からないマルコさんのこと。声を掛けてくれたのは建て前だったのかも。
はっきり相手がいないと言っていたわけではないし、もしかしたら迷惑だったのかもしれない。

すぐさま火を消して、一人になったマルコさんに近付いた。


「マルコさん、あの、先日はありがとうございました。それでさっきの話・・・どうしても耳に入ってしまったんですけど、」

ちょっと誘われたからって、気軽にご一緒してしまって何だかすみませんでした・・・!
そう頭を下げると、盛大に噴き出す声が聞こえてきた。


「さっきのは口実だよい。興味の無い女と出かける趣味はねェからなァ」
「え?どういう・・・」
「Name、お前は本当に面白ェなァ」

なんだか取り越し苦労だったようで安心したけれど、楽しげに揺れる瞳をみるとちょっぴり悔しい気分になる。


「も、もーマルコさんて全然分かりません!・・・それにズルいです」

まったくもう、と嘆くと、今までの空気がふと変わる。
さっきとは真逆の真剣な眼差しが私を捕らえていた。


「お前も十分狡いよい」

私に向かってこようとした手が途中でぴたりと止まり、そのまま元へ戻る。


「・・・いや、こんな場所でする話でもねェな」

去ろうとするマルコさん。
全然意味が分からなくて、でもなんだかこのままの妙な空気で終わりたくない。


「ちょ、マルコさん・・・!」
「そうだ。来週木曜16時から、アイスバーグさんの時間確保頼むよい」
「え?あ、はい」


笑って喫煙所を出ていくマルコさんの背中が、それ以上は踏み込むなと語っているような気がした。
本当によく分からない人だ。

それにしても私は、マルコさんといるとなぜか乙女モード全開になる。
高校の頃だってこんなことなかったのに、我ながら気味が悪い。

to be continued.



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