Above all be brave.

「ンマー全部キャンセルだ」の一言で私は大忙しになったり、究極に暇になったりする。
幸い今日は後者。1件だけ取引先に行き、その帰りにとあるオフィスビルで寄り道をすることにした。
そこの社長を務めるのは、アイスバーグ社長の元部下。起業し、新たな取引先として良好な関係を築いている会社だ。


「お〜Name!よく来たなァ!」
「はい!でもウェブ会議でよくお会いしてるのでそんな感じしませんよねー!」

明るい赤髪に、元気ハツラツな笑顔がよく似合っているシャンクス社長。一緒に働いているときから何かと可愛がってもらっていて、今でもたまに食事に連れて行ってもらったり愚痴を聞いてもらったりする。
酒出せ酒!と真昼間から宴会を開こうとするシャンクス社長を苦笑いで咎めるのは、右腕のベックさん。


「調子はどうだ?」
「それが最悪なんですよ。ルーキー達が生意気で生意気で!」
「ははは!それくらい度胸がありゃアイスバーグ社長も安心じゃねェか!」
「いやいやいや、ありすぎて逆に不安です・・・!」
「まァ考えようによれば頼もしいって事だ。あいつらの実力は確かなものだしな」
「実力があるから余計頭にくるんですよねー・・・!ま、なんだかんだ言って可愛いですけど」
「お。ようやくおれの気持ち分かったか?」
「それって私に対する気持ちですか?」
「もちろん」
「お頭そりゃひでェな」

笑い声が重なる。
しばらく談笑したところで、あまり長居するのもと思い切り出す。

「さてと、そろそろ失礼しようかな。またゆっくりご飯でも連れてってくださいね、社長」
「えーもう帰るのか?」
「あんたはもうすぐ会議が入ってるだろ。車を出させるから、ちょっと待ってくれ」
「いえいえ大丈夫です!皆さん忙しいんですから気にしないで下さい」
「遠慮すんなってName」
「そんな、本当に大丈夫ですから・・・!」
「そうだベン、今から至急この書類をクライアントに届けに行ってくれねェか?」
「了解。あーここなら車出すようだな」
「頼んだぜ。Name、ついでにお前も乗ってけ!なっ?お気に入りの靴が傷むぜ?」

・・・最高の上司だと思う。
お言葉に甘えて、ベックさんが運転する助手席に乗り込んで帰社。
デスクに着くと「3番に電話入っとるぞー」カクの声が聞こえてきた。

どうやら取引先の会社がミスをおかして、その報告らしい。以前から危惧していたことだったため何度も口をすっぱくして連絡を入れていたのだけれど、この有り様。
謝罪もそこそこに、言い訳ばかりを繰り返す電話口の相手に私はついに怒りをあらわにした。


「とにかくこの件は御社の社長と至急ご相談をお願いします。話がまとまったらすぐにお電話下さい」

受話器を置き、どうにか怒りを抑えようと深呼吸をひとつ。
ああ言ったものの現段階ではまだ立て直せる。
もう少し成り行きをみるとして、今はもうさっさ次の業務をこなすしかない。
切り替えたところでふと周りを見ると、先程の怒鳴り声にみんな聞き耳を立てていたのだろう。いつも騒がしいフロアは、気味が悪いくらい静けさが漂っていて空気が重く、逆にこっちが気まずくなってしまう。
これ何か冗談でも言ったほうがいい・・・?と気を遣おうとしたとき、外から帰ってきたと見えるルッチが私のデスクまでやってきた。


「あ、ルッチ。お疲れ」
「終業後ロビー」
「えっ?」
「二度も言わせる気かバカヤロウ」
「ちょ・・・」

なにが?と続ける前に来た道を戻り再び出て行く後ろ姿を、私と社員たちは唖然と眺めていた。


「ルッチの奴サイコーだったな!!」
「ワハハ!ワシも噴き出しそうになったわい!」
「おまえなんつータイミングでデートのお誘いだよ!ってな!しかも公開デート予約になっちまった!」
「何にも知らないとはいえ、あのクソ重い空気・・・入った瞬間に気付くだろフツー!空気読めっての空気!」
「それをスカして“終業後ロビー”」
「ぶっ・・・!似てる!!」
「“二度も言わせる気かバカヤロウ”」
「ワハハハハ!!」
「ははははは!!」
「あんたらねぇ・・・」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「お疲れー珍しいじゃんデートの誘いとか。あっはっは」
「待たせた挙句、その台詞と態度とはいい度胸だな。さっさと行くぞ」

タクシーに乗って着いた場所は、私が大好きなスペイン料理店だった。カジュアル過ぎず、かといって敷居の高すぎない洒落たお店。
カクめ、上手く逃れたな。
カウンターに通され、適当な食事とアルコールを頼んでグラスをぶつけた。


「で、なに企んでんの?」
「どういう意味だ」
「だってルッチが食事に誘ってくれるとか、久しぶりじゃない。私たちの間に大した話題もないし?あはは」
「お前なら大概暇を持て余してると思っただけだ」
「失礼ねー。ルッチなら女なんて嫌ってほど寄ってくるでしょ。そこから誘ったりはしないの?」
「そういった類の女は面倒なんだよ。少し構っただけで勘違いして付け上がる」
「まあルッチは素敵だから仕方ないよ」
「ふん。どうでもいい」

同期のルッチとは、サッチとはまた少し違う気心知れた仲だ。こうして2人きりで静かな時間を過ごしていると、入社したての頃を思い出す。もう付いていけないかもと落ち込む私に、ルッチは幾度となく朝まで付き合ってくれた。

「ふふふ」
「・・・突然なんだ」
「昔を思い出したの」
「・・・・・・」
「今でも大変なこと、たくさんあるけど。これからも一緒に頑張ろうね」

隣をみると、いつもの皮肉な笑みでなく穏やかにほほ笑むルッチが「そうだな」と囁いた。



to be continued.
thanks/空橙



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -