Bury sad in your smile.

企画が動き出して一ヶ月、秘書仕事と両立する要領を得て以前よりも肉体精神共に余裕の持てる日々を送っていた。それでも通常よりハードなことに変わりはないけれど。

「あれ?今日夕方まで社長と外出じゃなかったのか?」
「キャンセルだってさ。こっちも都合良いから許しちゃった」
「こういうときばっかりはあの癖もありがてェな」
「本当だよ。そうだサッチ、この件の確認したいんだけど今時間ある?少しでいい」
「んじゃ一服しながらにすっか」
「うん、そうしよー」

喫煙室に入り二人して煙草をくわえながら、一枚の書類を覗きこんで話し合い。他には誰もいなく、私たちは柱の影になっている入り口からはちょうど死角の場所に座っていた。
しばらくして数人の女子社員がお喋りに華を咲かせながら入室してきたけれど、私もサッチもちょうど思考をめぐらせ黙っているところだったので誰もいないと勘違いしたのだろう。


「ねえねえ、そういえば知ってる?今年二年目の経理の子がさあ、うちの顧問弁護士の・・・あー名前なんだっけ・・・」

よく通る複数の声は、嫌でも耳に入ってくる。

「えっと確か・・・マルコさん・・・だっけ?」
「あーそうそう!マルコさんにものすごく言い寄ってるらしいよ。前にお世話になってた先輩がいま経理に居るんだけど、その人いわくアレはすごい攻め方だって」
「え?ちょっと待って、その弁護士ってNameさんと付き合ってるって噂聞いたけど」

サッチが「はぁ?!付き合ってんのか!?」って顔をするのと同時におもいきり首を横に振った。
自分の名前まで出てきてしまったので、思わず息を呑む。

「それ私も聞いた!」
「じゃあお構いなしってこと!?その経理、すごい度胸じゃない!?」
「しかもマルコさんもさぁ、まんざらでもない感じらしい!」
「はぁ!?Nameさんと付き合ってるのに!?」
「嘘でしょ!?でも私はNameさん派だなー」
「私も私も!」
「私はあえて経理のほうかなー」
「付き合ってないかもよ!?もしかしたら二人でマルコさんを奪い合ってるのかも・・・!」
「何それ〜っ!おもしろい!!」
「ていうかNameさんてさ、素敵で憧れるけど怖くない?」
「怖い?」
「仕事のためなら何でも切り捨てるって雰囲気」
「あー・・・ちょっと分かるかも」
「え?どこが?気さくでいつもニコニコしてるじゃん」
「バカだなぁ、そういう人が意外と冷酷なんだってば!本当はどうか知らないけど」
「あ、冷酷と言えば昨日のテレビでさあ、」

好き勝手言ってくれる。
飛び出していきそうなサッチを片手で制止しながら、彼女たちが去るのを待った。


「あいつら・・・!どこの所属の奴らだ!?」
「いいよサッチ」
「でもよォ!」
「わりと当たってるし」
「・・・おまえ、」
「見る目あるよ。あ、やっぱり探し出して人事課に異動させようか?人を見る目が抜群だ、って」

自分の噂話なんてどうでも良かった。それよりも、マルコさんとあの子の噂の方が耳に残って仕方ない。
どうして今さらそんなことを気にする?良かったじゃないか。あんなに自分想ってくれる子はなかなか見つからない。私なんかを相手にするより、ずっと幸せになれるのが分かりきっているような子だ。
真偽は分からないけれど、二人が上手くいくなら私はきっと喜べる。きっと。





「いつまで待たせる気だよ」
「ごめんごめん!サッチと打合せしてた」

デスクに戻ると不機嫌顔のローが待ち構えていた。これから私はシャンクス社長に、ローはベックさんにそれぞれの案件を話に、一緒にレッドフォース社へ行くことになっているのだ。
急いで荷物を持ってビルを出ると、向こうからコンビニ袋を手に提げた例の彼女がやってくる。いま最も会いたくない人物だった。

「Nameさんローさん!お疲れ様です!お出かけですか?」
「お疲れさまー。うん、外出だよ」
「お気をつけて!あ、聞いてください。あれから頑張ってマルコさんに話し掛けて、いま結構仲良くしてもらってるんですけど・・・先日食事に連れて行ってもらえたんです。このまま上手くいけば、もしかしたら付き合えるのも夢じゃないかなぁって」
「本当?良かっ、」
「時間がねェ。行くぞ」

言い終わらないうちにローに腕を掴まれ、その場を後にする。
なんてタイムリーな話題だろう。
控えめな笑顔が相変わらず可憐で可愛らしかった。喜べる、とついさっきは思っていたのに薄い灰色っぽい感情がふわふわと胸の中をさまよっているから、鬱陶しくて気持ちが暗くなっていく。
そうしてシャンクス社長の元へ行けば、私の姿を見るなり目を丸くさせるから。

「Nameおまえ・・・どうした?」
「え?何がですか?」
「元気がねェ」
「あのーそれって顔に出てます?サッチにも心配されるんですけど」
「出てねェよ。出てねェけど、出てる」
「どっちですか」
「まあ親しい奴には分かるってことじゃねェ?」
「あー・・・そういう・・・」

昔からの馴染みで、今は会社から離れた存在だからこそ打ち明けられることもある。
室内には私たちだけということもありこれまでの出来事と自分の気持ちを細かく、すべてを打ち明けた。



「ふーん。で、お前はマルコが好きなのか」
「いやだから、そういうのは無いんですってば」
「でもさっきその経理の子に報告されて、いい気持ちはしなかったんだろ?」
「いい気持ちはしないというか、あーそうなんだーそっかー、みたいな・・・もやっとした気持ち?きっと寂しいんですよ。今まで良くしてもらってたのに、対象が変わっちゃったから。自分勝手ですよね」

さあ、私の話はこれで終わり。次は仕事の話ですよ、とタブレットPCを引っ張りだして打合せを始める。
仕事は味方だ。暗い気分を紛らわせてくれるから気持ちが落ち着く。
帰り際に「仕事もいいけど自分のことも大切にな」と笑うシャンクス社長の笑顔が、今の私には少しだけ痛かった。


to be continued.
thanks/抗生物質



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