No title.

オフィスビルの一階ロビーに店舗を構えるコーヒーショップ、ここが私の職場。
先輩たちは優しいし、お客様はビルの関係者がほとんどでわけの分からないクレームをつけてくる変な人も一切いない。それどころか、常連様ばかりだから親しい関係も築けてわりと毎日楽しく働いている。
あ、変な人で思い出したけど、この社の主要人物の方々はわりと変わったというかクセのある人が多いかもしれない。
今日はそちらをちょっとご紹介しようと思う。

まずはこの二人。
ローさんとキッドさんは大抵揃って来る。お喋りをしながらのときもあれば、キッドさんが苛ついているような雰囲気のときもあるし、かと思えば二人して悪い笑顔を浮かべているときもある。よく分からないけれど仲が良さそうなのは確かだ。

「ドリップひとつ」
「おれはカフェモカ」

二人とも毎朝同じドリンク、同じ注文の仕方。おかげで細かい部分は聞かなくても分かる。
ローさんはいたって普通のドリップコーヒー、今の時期はアイスでサイズはグランデ。キッドさんは見かけによらず甘めのカフェモカを、こちらもアイスでグランデサイズだ。
お会計は必ずどちらか片方が二人分を支払う。交互でもないのでその法則はよく分からないけれど、今週は三日連続キッドさんだ。
ドリンクを受け取ると必ず奥のソファ席へ行き、二人してタブレットと睨めっこ。あ、ローさんがキッドさんに何か言って笑ってる。いつも仏頂面だから彼の笑顔を見ると「今日はラッキーな日だ」なんて勝手に思ってしまう。
怖い感じの雰囲気をまとう二人だけれど、お店を出る際は必ずカウンターの前を通って「ごちそうさま」と言ってくれるから、私も気持ちよく「ありがとうございます。いってらっしゃいませ」と声を掛けるんだ。

それから五分もしないうちに、窓の向こうにカクさんとパウリーさんの姿が見えた。この二人もいつもと変わらずソイラテとドリップコーヒーだろう。

「おーす!今日は暑いな!」
「おはようさん」
「おはようございますー!暑いですねぇ。今日の外回りは倒れないように気を付けてくださいね!」

私が新入りの頃ミスをして、注文とは違うドリンクを作ってしまったとき二人は嫌な顔ひとつしないどころか、笑顔を見せながら「それで構わない」と受け取ってくれたのだ。(神様かと思った)
それから何かと気さくに声を掛けてくれて、私としてもそれがとても嬉しい。

「げ!カク見ろ、エースが来た!」
「・・・この距離じゃもう逃げられん。諦めろ」
「おっはよー!おれも混ぜて!」
「おはようございます。今日は何にします?」

エースさんは他の方と違って毎日違うものを注文する。そして朝ということもあり、ほとんどの人がシンプルなものを飲むのに対してエースさんはクリームたっぷりのフラペチーノ系を、グランデサイズで、しかもフードを二、三個セットにして注文してくるのだ。

「ピーチ・・・この新しいやつにする!あとテリヤキチキンサンドとクラブハウスサンド!」
「まーた朝からすげェな・・・」
「聞くだけで胃がもたれるわい・・・」
「ありがとなパウリー!ごちそうさん!」
「ちょっと待てええ!!誰がっ・・・!」
「諦めろパウリー。先輩の宿命じゃ」

この三人も、わりと店内でゆっくりしていくことが多い。手前のテーブル席に座ってエースさんは満面の笑みで並んだものたちを頬張り、そんなエースさんを見てカクさんとパウリーさんは苦笑い。
可愛い弟を見守るお兄さんたちのようで、なんだかとても微笑ましく思う。

その三人と入れ違いで来たのはサッチさんとNameさん。

「おはようございます!」
「おはよう!今日も可愛いなー仲良くなったことだし、そろそろおれとデートしねェ?」
「おはようー!いつものお願いします!」
「かしこまりました。キャラメルマキアート二つですね!」
「二人して完全に無視・・・!?」

サッチさんはいつもこんな調子だ。最初はそれを咎めていたNameさんも今ではもう完全に無視していて、私もふざけてそれに便乗して。このお二人とのジョークめいたやり取りは妙に面白い。

「・・・あ、見てサッチ。ピーチフラペチーノだって。美味しそう」
「おすすめですよ。期間限定なので、今度ぜひ飲んでみてください!」
「わあ、じゃあ今日の午後にでも来ようかなー!」
「あ、そんとき声掛けて。おれも飲みたい」
「それドリンク目当てじゃないよね」
「だってこんなに可愛い子がいるんだぜ!?理由付けて会いに来たいんだよ!」
「あははっ!ありがとうございます、お待ちしてますね!」

この二人は、席に座ってゆっくりしていく時もあれば受け取ってすぐ出ていく時もある。どうやら今日は時間がないらしく、また午後に来ることを告げて早々と出て行った。
その十分後に現れたのがルッチさん。次期社長という声もチラホラ聞くけれどいつ見てもすごい貫録というかオーラだ。

「エスプレッソに氷を。ショットは四つでトールサイズのカップで頼む」

いつも同じドリンクなのに、律儀に細かく伝えてくれるルッチさんは愛想こそないけれどそこが魅力だ。必要最低限のやり取りしかしたことがないので彼についてはあまり分からない。
ただ、カクさんだったりパウリーさんといる時はどことなく柔らかい雰囲気になるような気がする。ローさん寄りのタイプかもしれない。

ルッチさんが出て行った後、最後に姿を見せるのがアイスバーグ社長。

「ンマーおはよう」
「おはようございます!」
「差し入れだ。ンマー皆で食べてくれ」

よくスタッフたちに美味しいスイーツなどを差し入れてくれて、さすが社長といったところ。いつものアメリカーノを注文し、奥のソファでのんびりと過ごしているとしばらくしてNameさんが連れ戻して行った。どうやら会議の時間らしい。これもまあ、よくある光景だ。
Nameさんが、ローさんかアイスバーグ社長を。パウリーさんがエースさんを、と大抵決まった人たちだけれど。

そして今日は人もまばらなお昼前に、顧問弁護士のマルコさんがやってきた。彼を見て、先日先輩からとある噂を耳にしていたことを思い出す。
“Nameさんと付き合っている”
まあ、あり得ないことでもないだろう。以前二人で外に出て行く姿を見たこともあるし(きっとランチあたりかな?)お二人とも優秀なのは私から見ても一目瞭然だしとてもお似合いだ。
真偽は分からないけれど、もし本当に付き合っているのなら影ながら応援したい。

日が沈んできた時刻、エプロンを外して今日も忙しい一日だったな、とビルを出ると思わぬ姿が現れる。


「お疲れさん」
「わ、どうしたの?!先に帰ってるんじゃなかった?!」
「たまたま近く通ったから、迎えに来た」
「そうなんだ、ありがと!今日のご飯は何がいい?イゾウの好きなもの作るよー!」

スーツをびしっと身につけて働くサラリーマンも魅力的でかっこいい。
でも私は、この有名歌舞伎役者の彼が一番かっこいいと思う。


to be continued.



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -