2018/12/8 Sat

あのときはまだ先のことだと思っていたのに、秋なんてほんの一瞬で終わり、あっというまに本格的な寒さがやってきた。一歩外に出れば、どこもかしこもクリスマス仕様に装飾されている浮かれ気分な街は嫌いじゃない。

「やっぱりこのオーナメントかわいい! 買ってよかった」

毎年使えるものだし、せっかくだから買おうとお迎えした、私、いや、マルコさんの背丈すらも超える大きなクリスマスツリー。あわせて選んだたくさんの装飾品も広げ、浮かれ気分なのは街だけじゃなく私もだった。


「……あれ。なんだまだ飾ってねェのか? ああ、届かないのか」

仕事の電話で書斎に行っていたマルコさんが戻り、目をまるくさせた。

「とどっ……!? たしかに上のほうは届かないけど……! 一緒に飾りたいから待ってたの……!」
「ははっ」
「それに、マノロ履けば上の下あたりは届く」
「ヒール脱いで縮んだのもかわいくて好きだけどねぃ」

マルコさんは、細々した装飾品が散らばる床を器用にすり抜けて私をうしろから抱きしめた。頭上で「でかい」そうぽつりと聞こえて、すでに目の前のツリーに気が向いていることはわかったけれど。

「縮んだって、私がめちゃくちゃ小さいみたいな言い方しないで……! 平均身長は全然あるし……!」
「ん? じゃあ気にすんなよい」
「もっと欲しいの。だから気にする」

外は震えるほどの寒さでも、コーヒーの香りが漂うあたたかい室内でふたりともラフな部屋着で、私なんかメイクもほぼしてなくて、髪もざっくりまとめただけ。平日のように時間を気にもせず、かといって特になにをするわけでもないのにどうしてこんなにも幸せなんだろう。

「あ……!」
「え、なに……」

思い出したように声をあげるマルコさん。

「さっきの電話で決まったんだけどねぃ……23日の昼間は仕事することになりそうなんだ」
「あ、そうなの? 食事にはまにあう?」
「あァ。夕方で切り上げる。悪いな」
「大丈夫だよ、気にしないで」
「ついでに現地集合にしてもいいか?当日は食事の前にチェックイン済ませちまおう。ホテル待ち合わせでどうだ?」
「わかった。現地集合ね。……待ち合わせとか、なんかデートっぽい!」
「ぽい、じゃなくてデートだよい」
「あ。忘れないうちに聞いておくけど、どこのホテル?」

今日までクリスマスデート当日の詳細を聞かずにきてしまった。というのも、すべてマルコさんにおまかせしたため安心と信頼によりそれらはすっかり頭から抜け落ちて、代わりにプレゼント探しで埋まっていたから。ちなみに悩んだ甲斐あって、無事購入済み。
告げられた先は、日本屈指のクラシカルホテル。都を下ってすぐの異国情緒あふれる港町近辺にあり、いつか泊まってみたいとひそかに思っていたホテルだったから喜びは大きい。さすがマルコさんだ。

「楽しみー! あ、じゃあ食事は中のレストラン?」
「それは内緒だよい」
「なんで隠すの……! 絶対そこでしょ……!」

ま、いいや。なに着ていこうかなーとごきげんで思考を広げる。
やっぱりシックなドレスかなあ。あ、このまえモデルのエマが、デートでパパラッチされたときに着ていたデザインが素敵だった。そういえばあのデート相手とは付き合ってるのかな。たしか一般人……コックだとかなんだとか書いてあったような気がする。クリスマス、一緒に過ごすのかな。

「よし! じゃあ飾り付けていくか」
「うん!」


to be continued






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