目が合った瞬間、からだに電流が走るような衝撃。
理由もなく全細胞が「このひとだ」と告げている感覚。
惹かれあって彼以外のことは考えられなくて、まるで命がつくられる前から出会うことが決まっていた――そんな出会いがあると期待していた。
舞台しかり、小説しかり、恋愛作品はなにかと運命的に描かれていることが多くて、それを見ていると、いつか自分にもすてきな出会いが訪れるのではと期待をふくらませてしまう。
創作と現実の区別がつかなくなって夢をみるんだ。
それは決して悪いことじゃない。悪いことじゃないけれど、運命的な出会い、劇的な展開なんてものはそうそう簡単には降ってこない。
少なくとも私がそれを感じたことは生まれてから一度もないし、この先も感じる予定はずっと、ずっと、なさそうだった。


「ひとめ惚れとか、したことある?」

恋人に聞くことじゃないかもしれない。でも近くには、小さなランプのあかりを頼りに、ぶ厚い医学書とにらめっこするローしかいないのだから仕方ない。
返事を待つあいだ、その紙のなかには愛や恋なんてロマンスの欠片もないんだろうな、なんて当たりまえのことを思った。

「そんなこと聞いてどうする」
「あったら笑う。ローのそういうのって、ちょっと考えられないから面白いと思うんだけど」
「ないって言ったら」
「つまんない」
「面白ェこと探してるヒマがあったら夜番でもしてこい」

付き合ってられない、といった態度だったけれど、それで怯んでいたらローとはなんのコミュニケーションもとれない。
酔っぱらいが絡むように肩に腕をまわし、髪をかき撫ぜる。

「いいじゃん。ね、おしえてよ」
「しつけェ」

言葉と身体の攻防戦をくり返しているうちに、だんだん可笑しくなってくるから最後のほうは私もローも笑い混じり。
こんな無防備な姿を見るたびに、私の心にはあたたかいものがじんわりと広がり、どこかほっとするような感覚になる。いつだったか話してくれた過去の傷を、ほんの少し、癒してあげることができたような気がするからだ。

「ナマエ。おまえはほんっとしつけェよな」
「そこも好きでしょ」
「憎たらしい」
「ふうん。私ってローに似てるんだね」

距離が近かったせいか唇を塞がれる。黙らせたいだけだとわかっていても、触れられるのは無条件でうれしい。
背中にソファの座面が触れ、形勢逆転は一瞬。
真上からこちらを見下ろすローの瞳には、私と、ランプのあかりがぼんやりと映り込んでいた。

「おしえてくれる気になった?お礼に良いお酒飲ませるよ」

もはや、気まぐれな質問への回答なんてどうでも良かった。こうしてかまって欲しかっただけなのかもしれない。
そう思っていたのに、返ってきた言葉が予想外すぎて、食いつかずにはいられなくなってしまった、

「一度だけある」
「プッ……ほんとに!? あるの!?」

あははとひとしきり笑って、また質問攻め。

「いつ? どんな子に? それでどうしたの?」
「この話は終わりだ」
「えーなんでよ」
「ああそれと、王下七武海になる」
「…………“明日の朝はみそ汁飲む”みたいにさらっと言うのやめてよ。それに話すり替えないで」

さっきまでの無防備はどこへやら。見慣れた不敵な笑みが見下ろしていた。

「たいしたことじゃねェだろ。嫌か?」
「んー…………この手は好き。長くて綺麗な見た目もいいけど一番は、人を生かすも殺すもできるところ。あとはスタイルもなかなか良いし、顔も頭も悪くはないよね」
「まァな」
「度胸もあるし……こんなもんかな」
「不満は延々と出るくせに、褒めるところはそれだけかよ」
「ローみたいな男は大嫌いだけど、ローは好き。だからいいよ」

七武海でも、海兵でも、山賊でも、なにを目指そうとも私のとなりにローがいて、ローのとなりに私がいればなんだっていい。運命的な出会いじゃなくても劇的な展開がなくても、私のなかの細胞は「このひとだ」と言っている。


一緒にいられるなら、運命じゃなくてもいいよ

好きになった女はおまえが初めて。
昔、ローからそう言われたことを思い出した。
どうりで話をすり替えたわけだ。


ありすさんへ


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -