午前中に大きな合同演習が入ると、怪我人が続出して船医チームは大忙し。お昼を過ぎて、ようやく手当てが終わっても後片付けだとか諸々の処理をしていると、あっというまに夕方近くになってしまう。
子どもだったらおやつだと喜ぶ、そんな時間帯に食堂へ来てもほとんど人はいない。おなじくひと仕事終えた四番隊のクルーが、ちらほら座っているだけだ。

「おうナマエ、おつかれ!」
「あーサッチおつかれ。やっとお昼にありつけるよ」
「適当なもんでいいか?」
「うん。ごめんねこんな時間に」
「いいっていいって。ひとりか? 他の奴らは?」
「ここまできたら抜くわ、って」
「マジかよ」
「年中ダイエットに励む彼女たちに、ヘルシーで栄養あるもの差し入れてくれない? あとででいいからさ」
「そだな。あいつら夜もほとんど食わねェしなー」
「私からするとよく生きてるなって感じ」
「おまえはよく食うもんな……」
「食べないと体力持たないもん」

先に飲み物だけもらい、そのへんの席に座るとタイミングを計ったように、マルコが甲板からやってきた。

「今から飯か?」
「そ、誰かさんが張りきったせいで怪我人が多くてたいっへんだった!」
「へェ。そんな優秀な奴がいるならうちの隊に欲しいねぃ」
「よく言うよ……」

遠まわしな嫌味は効果なし。それどころかダメ出しとして返ってくる。

「それよりおまえが巻いた包帯はすぐ取れちまうって、うちンとこの若ェのがぼやいてたよい」
「ふーん。ここに呼んだら? 丁寧に巻き直してこう言ってあげる。包帯ごときでいちいち騒ぐな、そんなに嫌なら怪我しないように強くなれって」

ちょうど食事を運んできてくれたサッチが噴き出し、ごもっともだととなりの席に座って味方してくれた。これで気兼ねなく食事ができる。

「いただきまーす」
「取れちまうって、どーせそいつがまた暴れただけだろ? ナマエは優秀なんだからそんなに責めるなって」
「責めちゃいねェよい。技術向上のために報告してやってんだ」
「自分の彼女だってのに手厳しいなァ。なあナマエ?」
「このパン美味しい!」
「…………。こういう奴だよい。厳しいくらいがちょうどいい」

その後もちまちました指摘を受けつつ、食事を進めた。サッチは相変わらず味方をしてくれるけれど、それにほだされるようなマルコじゃない。

「あーおなかいっぱいになったら眠くなってきた……」
「おいおい疲れてんのは分かるけどここで寝るなよ? もうすぐ夕飯だから騒がしくなるぞ」
「ナマエ。寝るなら部屋に戻れよい」

ちょっと食後の休憩、とばかりにテーブルに突っ伏す。
ナマエちゃーんと呼びかけるサッチの声が遠くなり、あっというまに意識を手放した。



◇◇◇



気づくとあたりは真っ暗闇。慣れ親しんだ背中の感触と、となりの気配でここはマルコの部屋だなとすぐに理解した。

「起きたか?」
「…………あのまま食堂で寝ちゃった?」
「そうだよい。秒殺だった」

ななめ上で喉がちいさく鳴っている。
寝てしまった罪悪感を振り払うように、となりに腕をまわせば。あたりまえに抱き寄せてくれる腕が嬉しい。

「ナースたちには伝えといたからゆっくり休めよい」
「ん、ありがと」
「相当疲れてたんだねぃ」
「今日はねー……。あ、シャワー浴びなきゃ」
「もう少しだけ、」

甘くささやかれたと同時におおきな手のひらが後頭部にまわる。
クルーたちを統率し牽引する、この力強くて逞しい手。いまだけはおだやかな愛情に溢れ、私をつつみこんでいるのかと思うと、身動きひとつだってしたくない。

「ね、マルコ」
「ん?」
「マルコが外で厳しいのは、私のためだってちゃんとわかってるからね」

隊長の恋人だから、甘やかされている。私が周囲にそう思われないよう、あえて手厳しくしていることをちゃんと知っている。本人から言われたことはないけれどいつだって私を見る瞳はやさしいし、部屋ではこうしてたくさん抱きしめてくれる。
否定も肯定もせずに、唇だけが降ってきた。
とろけて、海の底まで沈んでしまいそうな深いキスにまた意識を手放してしまいそうだ。


痺れた心に甘く響かせて


リアンさんへ


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