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この街の未来を切り拓いた海列車。
船大工職人たち。
私もいつか彼らのように、誇りを持てるなにかを見つけたい、と漠然とした気持ちを幼いながらにも抱いていた。そして大人になるにつれ、その「なにか」が「船大工」になった。


「あなたに憧れて私は今ここにいます!」
「ンマー……」
「あなたはこの街の、私のヒーローなんです!」

憧れていた街のヒーローに向けて、私が初めて発した言葉だった。
内心心臓が飛び出るんじゃないか、くらいに緊張していた面接は「いいよ」のたった三文字で終了。なにがどうなったのかよく分からないまま、その隣にいた秘書から諸々の説明を受けて翌日には一番ドッグへ初出勤していた。



「カク職長、おはようございまーす!」
「おーおはようさん」
「今日なんの日か知ってます?」
「はて。Nameの誕生日……は、だいぶ先か」
「私が入社して五年目、の日です!」

それはさすがに分からんわい。と眉を下げたカク職長。お祝いに奢ってください、今夜空いてるんで!と言い逃げして持ち場へ急いだ。
見習い二年、そこからいっきに大工職のなかでもカク職長の近くまで伸し上がることができた。もちろん今でも足りないものは多い。でも確実に力はついてきている。と、信じてる。
海列車がこの街に光をさしたように、私もこの手で造りだした船で誰かに光を注ぎたい。その一心でここまできたんだ。


「ンマーどうだ、やってるか」
「アイスバーグさん!お疲れ様ですっ」
「お疲れ様です!アイスバーグさん、ちっとここ見てくれませんかね!!」
「アイスバーグさん、それ終わったらこっちもお願いします!」
「社長!その次ァこっちも見てくれねェか!」

彼が来ると、まさにヒーロー登場といった様子で職人たちが沸き立つ。私たち職人は船造りの同志であり、アイスバーグさんを敬愛する同志でもあるんだ。

「Name、お疲れ様。今ちょっといいかしら?」
「あ、カリファさんお疲れ様です!大丈夫ですよー」
「来月なんだけどお得意様たちを招いてちょっとしたパーティーを開くの。職人からは各ドックの職長たちが代表で参加するんだけど、あなたも参加してくれない?」
「職長じゃないのに?」
「ええ。女性がいたほうが華やかになるわ」

あなたで事足りるでしょうが……!と思うくらいの綺麗な笑顔が眩しい。

「ンマーName。頼んだぞ」
「あっ!お疲れ様です!わかりました」
「どうだ、作業は順調か?」
「はい。図面のここなんですけど、従来より強度があがるこの手法で今回やってみました。もちろんカク職長には許可をもらっています」
「ンマー……なるほど。いい案だな。お前が提案したのか?」
「はい!」
「実物は?」
「あの部分になります」

案内すると、汚れた木材や工具の合間を縫って近くまで進んでいくアイスバーグさん。

「あっ、それ以上行くとスーツ汚れちゃいますよ!」
「ンマー構わん。それよりちょっと説明してもらえるか?」

カリファさんを見ると、替えがあるから大丈夫。との視線が。根っからの技術者に頭が下がる思いで後を追いかけた。



◇◇◇


ウォーターセブンで一番の高級ホテル。そこのイベントホールを貸し切ってのパーティーは想像以上に華やか。一体どこらへんが「ちょっとしたパーティー」なのだろうか、ともう五十回くらいは思っている。
カリファさんが手配してくれた業者に、ドレス選びからヘアメイクまで施してもらいどこかの女優にでもなった気分だ。
歩くと後ろになびく、流れるようなシルエットのドレス。デコルテは敢えてノンジュエリーにしたところがプロのテクニックを感じる。

「おー!綺麗じゃのうName、見直したわい!」
「おまっ!!ハレンチすぎるっ……!!」
「実に綺麗だ。クルッポー」
「ありがとうございますー!普段着る機会ないんで、テンション上がりますね!」
「よく着こなしてるぞ。毎日それで作業してくれたらもっと目の保養になるんじゃが」
「セクハラだカク!!」
「うるさいッポー」

アイスバーグさんの挨拶から始まり、そこからある程度のフリータイム時間。といっても私たち社員はお客様への挨拶周りやマスコミ対応で大忙し。でも不思議なもので、心の中は慌ただしくとも振る舞いは優雅になるんだから、身につけているもの、場所、雰囲気が及ぼす影響というのはすごい。
合間を見て化粧室に行き、足も疲れてきたので少しだけ、と会場外のソファに座っていると同じく化粧室帰りであろうアイスバーグさんがやってきた。

「ンマーお疲れ。飲んでるか?」
「そんなヒマないですよ……!」
「ははっ、あと一時間でお開きだ。客を帰したら社員の貸切になる」

そこでゆっくり飲むといい、そう言って隣に腰を下ろしたアイスバーグさん。

「いいんですか?サボってたらカリファさんに怒られますよ」
「ンマーいいんだ。疲れた」
「はあ……」

いつもと違うシチュエーションだから、なんだかアイスバーグさんがとても遠い存在のような昔の感覚になり、緊張してしまう。
憧れの人と二人きり。どうしよう、なにか話さなければつまらない女だと思われるかもしれない。つまらない女にいい船は作れない、とか思われたら最悪だ。

「綺麗だな」
「……あ、はい!素敵なホテルですよね。一度来てみたかったんです」
「いや、」

眉を下げ、喉を鳴らして可笑しくてたまらないといった様子のアイスバーグさん。笑うところではなかったはずだ、とただただ不思議に思う。

「ホテルも綺麗だけどな、」
「?はい」
「おれが言ったのはお前のことだ」
「えっ!?いやっ!あーえっと、ありがとうございます……」

驚いたり困ったり照れたり、挙動不審なのが自分でもよくわかる。なのでアイスバーグさんが未だに笑い続けるのも理解できる。

「緊張してるのか?ンマー憧れのヒーローと二人きりだから」
「はっ!?ちょっ、覚えてるんですか!?」
「よく覚えてるさ。お前が出て行ってから大笑いしたからな」
「やめてください忘れてください!!」
「先月で入社五年目に入ったか。よくここまで頑張ってくれた」

泣きそうになった。世界一の造船会社の最高責任者。世界一の造船技術者。この都市の市長。そんな人物が、ちっぽけな私なんかの五年も前のことを覚えていてくれただなんて。
ああ、だから慕われるのだ。だから偉大なことを成し遂げるのだ。

「……ありがとうございます。憧れのアイスバーグさんの元で、職長や他の職人さんも皆さんすごい腕を持っていて。そんな最高の環境で働くことができて、その、すごく幸せです。あのとき採用してくださって……本当にありがとうございました」
「一次審査、実技のときだ。ンマー……目が良かった。腕も素質があった。ここにいるのはおれのおかげじゃない。お前の力だ」

裏のないまっすぐな笑顔に、この上ない嬉しさが込みあげてくる。そして、このひとについて来て良かったと心から思う。


「ンマー戻るか」
「はい!……痛っ」
「どうした?……ああ」

嬉しさは一転して激痛に変わった。慣れないハイヒールで、足首の薄い皮膚が擦りむけてしまっていたのだ。痛いなとは思っていたけれど、まさかここまで悪化するとは。

「すみません、先に戻ってください。フロントに行って絆創膏でももらってきます」
「その様子じゃ歩くのも大変だろう。おれが行ってくるから待ってろ」

制止する私の声も聞かずに颯爽とエレベーターに向かっていくアイスバーグさん。一歩足を動かすたびに走る激痛に観念して、お言葉に甘えて座って待っていることにした。


「大丈夫か?」
「はい。ありがとうございます」
「ンマー腕ちょっとあげてみろ」
「え?こうです……うわっ!ちょっ!!」

するりと体にさしこまれた腕が、なんなく私の体を抱き上げて。大慌ての私とは逆に凛とすました顔がすぐ目の前にあって、なにが起きているんだかさっぱり分からない。

「ア、アイスバッ……なにを、これ、なんでっ」
「ンマー部屋を取った。これじゃ帰るのも大変だろう?」
「は!?え、ちょっと……!」
「安心しろ。おれは泊まらねェから」

またくつくつと笑って。必要なものはあとでカリファに届けさせる、と加えた。
聞きたいことや言いたいことは山ほどある。でも混乱に混乱が重なるとなにも言葉が出なくなるんだと初めて知った。
体は硬直して動かないのに、心臓だけは激しく鼓動していてそれにまた混乱が重なる。
憧れの遠い存在だったひとが、急に恋愛圏内に飛び込んできたようなこの感じ。いやまさか。いや、憧れが発展するのも珍しい話ではない。いやいやいや。
少ない理性でそう自問自答を繰り返していると、目の前の綺麗な横顔がふとこちらに動いた。

「ンマー本当のヒーローみたいだな!」

そう豪快に笑ったアイスバーグさん。
私の憧れが、恋になった瞬間だった。


いつか、また、
こうして優しい両手で受け止めて




thanks/TAICHI

twitterで配布したリクエストチケット!使ってくださりありがとうございます!
アイスバーグさんに憧れる女職人。パーティーで足を痛めたのをきっかけに、憧れが恋に・・・!?なリクエストでした(*^^)
上手く書けたかは相変わらず不安なんですが、久々のW7設定でとても楽しく書くことができました。
どうぞこれからも仲よくしてください!
ありがとうございました。

thanks/lady