ドレスを脱いだ私も愛して

To be yourself in a world that is constantly trying to make you something else is the greatest accomplishment.

―― Ralph Waldo Emerson
絶えずあなたを何者かに変えようとする世界のなかで、自分らしくあり続けること。それが最も素晴らしい偉業である。



この職に就いたものなら誰もが夢みる、スーパーモデルというトップポジション。
近年では、某有名下着ブランドの顔となる“エンジェルズ”の一員になれば、いっきにそこへ伸し上がることができるいわば登竜門として知られている。
過去その“エンジェルズ”で頂点に輝いた人物といったら、人々はジゼルやアドリアナ、ミランダなどを挙げるだろう。

先日からそれに、一人の女性が続くこととなった。

エンジェルとなった当初からネクスト・ミランダと称された彼女は、持ち前のルックスとスタイルで抜群の人気を誇り一世を風靡する存在となった。
どんなSNSもフォロワー数は世界一。公私ともに着用するウェアは即完売。会社の業績は登っていく一方。
そんな彼女は先日、ブランドとの契約満了を迎えトップ・エンジェルの座を次世代モデルたちに明け渡したのだ。
だからといって彼女への注目が衰えることはない。
活動の幅が広がる今後の彼女は、なにを選択し、どう歩んでいくのか、むしろ世界の注目はいっそう深くなった。



「エマ。準備できてるか」
「おはようマルコ。できてるよ」
「外にはいつもの奴らが集まってやがる。ショウの後だからある程度予想はしていたが……数が多すぎるよい。早めに出るぞ」
「わかった」

自宅ゲートに出ると、数50近くのカメラマンが待ちかまえていた。
彼らはパパラッチ・カメラジャックなどと呼ばれターゲットを執拗に追いかけ、写真を撮り、タブロイド誌や雑誌の出版社・通信社等に高く売りつける、ほとんどがフリーランスのカメラマンたち。
家にいればゲートを囲み、出かけようものなら車を囲み、どこかの店に入れば路上で待ちかまえ、姿を現そうものなら可能なかぎり、全身を映すよう正面にまわりこんでレンズを向ける。
昼夜関係なく、ターゲットがいる場所にはセットかのように必ず集まり、バイクや車で追い回したりチャーター機で上空から撮ってくることも普通だ。
これに目をつけられた者に、最早プライベートや権利や侵害なんて言葉はないに等しかった。
一歩足を踏みだすたびに幾十ものフラッシュを浴び、ターゲットとなるスターはときに笑顔を見せ。ときには無表情。ときには怒鳴り散らして殴りかかる者だっている。
言わずもがな彼女も狙われている一人だ。
エンジェルに就任した当初から徐々に数は増え、今じゃ皮肉なことにその数すら世界トップといえるだろう。
各媒体のゴシップ欄に彼女が載らない日は、ここ1年では一度たりとも無かった。


「お、出てきたぞ!」
「おはようエマ!」
「エマ! ラストショウお疲れさま、すごく良かったよ! 今後ラガーフェルドと契約結ぶって本当!?」
「ショウお疲れさま、今日も素敵だね!」
「エマこっちを見て! これからどこに行くの!?」
「ラストショウ最高だった! 今後も期待してる!」
「ハイ、エマ! 今日の気分はどう!?」
「エマ! ジゼルが今朝、君のことを絶賛したツイートをしていたよ!!」
「ショウお疲れさまエマ! 今日も一日楽しんで!」

一斉に、そして自由に声をかけるカメラマンたちはライバルに負けないよう、そして本人から反応をもらえるよう声を大にして叫ぶ。いくつもの声に重なるのは、いくつものシャッター連写音。
セキュリティ・チームにフォローされながらも、彼女は慣れた足取りで歩いていく。

さあ、笑顔を見せるか。
それとも相手にしないか。
はたまた怒鳴り散らすか。


「え、うそっ、ジゼルが私に!? すぐチェックする教えてくれてありがとう!」

飛びあがって小躍りしながら、黒塗りエスカレードの後部座席に乗りこむ彼女。
カメラマンたち、セキュリティやエージェントなどスタッフ、その場にいた者全員がどっと湧いた。
持ち前のルックスとスタイルで彼女は抜群の人気を誇ったと言ったけれど、自由で飾りっけのない言動こそが、最も人々の支持を得た部分かもしれない。


◇◇◇


後部座席にはエマとマネージャーのマルコ、運転席と助手席には、セキュリティ兼運転手を務めるクザンとベックが。他にも、マルコと同じくマネージャーを担うルッチ、セキュリティ兼運転手のスモーカーなど多数の専属スタッフが存在する。すべて彼女が所属するエージェンシーの人間だ。
彼らは全員、彼女のよきパートナーであり理解者でもある頼もしい存在となっている。

「ねえマルコ見て! 本当にジゼルが私について呟いてるっ……! 最高の女性だって!! リプライしたいけどもうなんて言ったらいいかわかんないし手が震える……! 死にそう……!」
「それにしてもトップシークレットだったラガーフェルドとの契約がもう漏れてるとはねぃ。ベック、どう思う?」
「濁しておけばいいじゃねェか。勝手に盛りあがって宣伝になるんだから世話ねェよ」
「それもそうだな」
「マルコってば! リプライどうしよう!」
「うるせェよい。それよりランチはきっかり1時間で切り上げるからな。今日は予定が詰まってるんだ」

一蹴されても気にするそぶりを見せず、今度は身を乗りだしてクザンに回答を求める彼女のスマートフォンが鳴る。

「ほら。座って出ろよい」
「イゾウ? もう着いた?……うん……あはは! わかった、あと5分で着く。じゃあね!……マルコ残念、カメラ撒けなかったって」
「ったく……おまえらが揃うととんでもねェ数になるから大変なんだよい」



to be continued.

Afterword


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