ドレスを脱いだ私も愛して

There is more pleasure in loving than in being beloved.

―― Thomas Fuller
愛する喜びは、愛される喜びよりも、はるかに優るものである



ファッション・ショウ、ブロードウェイ・ショウ、オート・ショウ、ストリップ・ショウ、この街の人間は無類のショウ好きだ。
なかでも人気があるのは、前後半制をとるスポーツ試合に行われる、ハーフタイム・ショウ。NBAの試合で盛り上がる会場に入った私は、急いで最前列に座るイゾウの元へと向かった。

「ごめんごめん! 撮影押しちゃった」
「突然誘って悪かったな」
「うわっナイスシュート! この試合、たしかローと行くって言ってたやつじゃない? ローは?」
「急な仕事が入ったらしい。ひとりじゃ退屈だから来てくれて良かったよ」
「そうなんだ。まあ私も今日はイゾウに話したいことがあるからねー!」
「だろうな。朝から騒がしくて仕方ねェ」

そう言って唇をななめに歪めるから、にたにた笑いが止まらなくなる。

「ふふふふふ……!」
「気持ち悪ィな……」
「私もそう思うんだけどね、ふふふ……止まんないの。あ、ナイスフェイント!」
「サッチと上手くいって良かったじゃねェか」
「うん! あ、でも付きあってないよ。デートはうまくいったけど」
「はあ? それだけでンな上機嫌なのかよ」
「そりゃあもうすっごく楽しかったし」
「おまえってほんっと単純だよな。記事ちゃんと見たか?」

案の定、あれからすぐに写真や動画がネット上にアップされた。朝になれば各媒体のゴシップ欄に掲載され、まだよく見ていないけれどSNSには多くのコメントが寄せられている。

「見たよ! みんな騒いでるから、なんか勝手に彼女気分になってるふふふふ」
「アホか。中身しっかり読んだかって聞いてんだよ。見てみろ」

差し出してきたスマートフォンの画面を覗くと、でかでかとエマ、新恋人か!≠ネんて書いてあるから、顔はゆるむばかりだ。
見兼ねたイゾウが、中身もちゃんと読めよ、そう念を押してきたので従うと。
恋人かどうかは今のところまだわからない。でもエマが彼に恋をしていることには間違いない。昨夜の彼女は問いかけに一切答えなかったけれど、この笑顔を見れば一目瞭然だ

「ほんとう、彼女はとてもわかりやすいよね!=c………は、なにこれ私がサッチのこと好きなのバレてるじゃん」
「バレてないと思ってたことが驚く」

スクロールすると、記事下にいくつかの画像が貼られていた。
食事を終えて、車に乗り込むまでの写真が何枚か。もちろんそこにはサッチもいる。問題は最後の一枚、自宅に着いて車を降りてからの写真。

「なにこれ私めちゃくちゃ笑ってるんだけど」
「笑ってるな。恋する乙女って顔してんな。どうせ別れ際にキスでもしたんだろ」
「残念、ハグだけ!」
「いばるなよ……。つーかそれだけでこんな笑顔になんのかよ」
「いやーこの顔は無自覚だった。さすがにちょっと恥ずかしい」

SNSのコメントをじっくり見てみると。
エマは彼が好きなのね、恋をしてる表情だ、エマの恋が上手くいきますように、初めて恋をした少女のような笑顔だね、ほとんどこういったことばかり。
いやいやみんな恋とか言ってくれちゃってるけど、私まだなにも明確に言ってないよね……!と愛あるつっこみを入れたくなる。

「サッチのほうは大丈夫なのか?」
「ここ来る前に連絡したら、何人かカメラマンが来たけど相手にしなかったって言ってた」

イゾウと顔を見合わせ、とりあえず安心だねとお互いうなずく。
試合はいつのまにか前半戦が終わり、ハーフタイム・ショウに突入していた。

「エマとイゾウじゃない。久しぶり」
「シンドリー。久しぶりだな」
「久しぶり! 元気だった?」

ブロンドボブがチャームポイントの舞台女優は、わざとらしさいっぱいに笑顔も言葉も優雅にしてみせた。

「ええ元気よ。巷で話題の女性に会えて光栄だわ」
「えーふふふ」
「だから気持ち悪ィっつーの」

からかわれていることは明らかなのに、バカみたいに素直にゆるんでしまう頬。もう自分でもコントロール不能だ。

「おい君たち、モニター見て!」

おしゃべりに夢中な私たちに、まわりが突然声をかけてきた。
ハーフタイム中だというのに観客の異常な盛り上がりでまさかと察し、場内の大型モニターを見ると。そこにはハートの絵の枠におさまった私とイゾウが、ぽかんとした表情で映し出されている。そう、キスカムだ。
観客のなかから、ランダムに選ばれたカップル(を主にした2人組)がカメラで抜かれ、モニターに映し出される。そのカップルは観客たちに煽られ、はやし立てられながらキスをするという、スポーツ試合のハーフタイムによく行われるイベント。

「……! うそでしょこれ初めて!」

興奮しながら視線をとなりに移す。するとイゾウは、すっと私を抱き寄せて額に力強く口づけてくれた。
大歓声で温度が上昇する場内。テンションが上がった私もイゾウの頬にキスをし、シンドリーも反対側で私と同じようにしてみせれば、まるで優勝が決まったかのような騒ぎになった。

観戦後は仕事が入っていたため、イゾウと別れて迎えの車に乗り込む。
運転席にはクザン、そして助手席にはシャンクスが乗っていた。マルコは先に現場入りしてるらしい。

「おかえり! どっちが勝った?」
「ニックスが勝った! あ、聞いて私はじめてキスカムに出たの!」
「まじかよ! 今度のデートはスポーツ観戦に決まりだな!」
「それいいアイデア……! 合法的にキスができるふふふ……!」

怖いよ。と冷静なクザンのつっこみは、シャンクスによってかき消された。

「まァそれにしても、昨日も楽しめたみたいで良かったよなー」
「うん! このまま上手く進んだらもっと良いんだけどねーなんて」
「上手くいくさ。エマに好かれて拒否する男はいねェよ」
「じゃあ今までの彼は?」
「男じゃなかったんだ」
「あはは」
「エマは良い子だから、きっとサッチも惹かれる」
「ありがとう」

シャンクスにそう言ってもらえると、本当に上手くいく気がする。
彼は他人を認めて、自信を与えてくれる。そしてそれは私だけでなく、どんな人に対しても平等だった。そのせいかまだスタッフになって日が浅いにも関わらず、老若男女問わず会う人会う人ほとんどが魅了されていくのだから。
彼は素敵なひとだね、と仕事先で何度言われたことか。


to be continued.

Afterword


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