6:00

海外雑誌に載っていそうな空間。
グレーとホワイトで統一されたインテリアの中央に置かれたダブルベッドには、見るに堪えない寝相の二人が転がっている。まるで死体だ。


8:30

彼が起きたようだ。枕元のスマートフォンで時計を確認し、そのまま明後日の方向を向いている彼女に寄り添ってシーツを掛けなおす。
キスをひとつ落として、頬を指でつついてみたり。ちょっかいを出しているようだけれど彼女は一向に起きる気配がない。


8:35

諦めたのか彼はあくびをこぼしながら部屋を出た。彼女は未だ微動だにしない。


9:10

ふたたび彼が寝室に現れた。
「Name、起きろよい」
「んー……」
「買い物行くんだろい」
「……行く」
むっくりと起き上がった彼女にまたキスをして笑う彼。可愛くて仕方ないといった表情だ。


9:15

リビングに移動した二人。ダイニングテーブルに並んだシリアルとサラダとコーヒーを見て彼女が驚く。
「わ!マルコさんが用意してくれたんですか?!」
「ああ。早く食って出かけるよい」
「ごめんなさい私ぜんっぜん起きなくて、」
いいよい、と彼はまた笑った。


10:10

「マルコさーん。これスカートとパンツどっち着たらいいかなー」
「パンツがいいんじゃねェか?歩き回るだろうからねぃ」
どっちでもいい、なんて適当なことを言わないとはこの男、女心をよくわかっている。
「じゃあそうしよっ」
質問の答えに「えー」と文句を言わないとは、この女も男心をよくわかっている。


10:30

「よし、出発!」
「ほんとに車じゃなくていいのか?」
「うん、いいです。天気良いから歩きたい!」
「わかったよい」
彼にはきっと先が見えているのだろう。承諾しながら苦笑いをこぼして、また彼女にキスを落とした。ここを出たら帰ってくるまでできねェだろい?と言って。


11:00

付き合う前に偶然出くわしたり、その後日最上階レストランで食事をして夜景を見つつ……と二人にはなにかと縁のある複合施設でショッピング。
「あ。これ可愛いー」
「すみません、これの在庫「ちょ、待っ、欲しいとかじゃないから……!」
「?なんでだよい。買えばいいじゃねェか」
ぽかんとした顔で自分の財布を差し出す彼。
「そういうのじゃなくって……!なんていうか、可愛い、は女の口癖みたいなもんです……!」


12:00

とある店舗の前で立ち止まる二人。
「入らない理由ねェよなァ」
「もちろん」
たくさんの靴が品よくディスプレイされたその店は、彼女のお気に入りらしい。
「この新作っ……綺麗……!美しいっ……!これ履けば天国に行ける気がする……!」
「すみません、これの在「だから違っ、」
「買えばいいだろい。あ、家用にするか?」
「いやっ、だからそういうのじゃないんですって……!」
次から次に簡単に手に入ったら、ありがたみがなくなるうんぬんと彼女は怒った。欲しいなら買えばいいのに、とそのあたりの女心はイマイチよくわからない様子の彼。


12:15

「どうする?そろそろ飯にするか?」
「うん、いい感じにお腹空きましたー」
「なに食いたい?」
「なんでもいいかなぁ」
デタ!なんでもいい!男が使うと女は激怒するくせに、女はあっさりと使う言葉。そして使われた男は困惑するのがほぼほぼお決まりだ。最悪嫌な空気が流れる、なんともタチの悪い一言。しかし彼にはまったく問題なし。
「んじゃ下のイタリアンにするか」
「そうしましょう!あ、ピザ食べたいな」
「いいな。うまかったら今夜分にテイクアウトしようかねぃ」
「あ、いい!そしたらDVD観ましょー」


12:30

グリーンに囲まれた、オープンテラスのソファ席に通された二人。ランチメニューは無視して好きなものを注文したようで、さっそく生ハム・サラミ・オリーブの盛り合わせとともにグラスの赤が二つ運ばれてきた。
「乾杯」
「かんぱーい」
「あーやっぱ昼間の酒は格別にうまいねぃ」
「最高。明日も休みだし、幸せー」


12:55

季節野菜とフルーツのサラダ、ムール貝のワイン蒸し、ラムチョップのグリル、そして窯焼きのマルゲリータがテーブルに加わって大満足な表情の二人。天気の良い空の下、開放的な場所でおいしいお酒と食事を嗜む休日。たいしたことではなくとも贅沢な時間だ。
「あ、そうだマルコさん。なにか欲しいものありません?」
「欲しいもの?突然なんだよい」
ピザを一切れ、彼女のお皿にそっと載せる彼。彼女はグラスを一口分傾けてからそれを手にした。
「もらった靴のお返しにーと思って」
「ははっ、そんなのいらねェよい」
「えええ……そういうわけには……」
「じゃあ明日ハンバーグ作ってくれよい。とびきりうまいやつ!」
「それはもちろん作るけど、そうじゃなくてなにか、」
「うまいなピザ。テイクアウト決定だねぃ」
まともに取り合ってくれない彼に彼女はため息をこぼした。


14:30

ランチを終え、二人はまた買い物を楽しんでいるようだ。彼の手にはいくつかのショップ袋が握られている。
「だいたい見たし、そろそろ帰ります?」
「そうだねぃ。楽しかったか?」
「すっごく。もう大満足」
「んじゃそこのドアから出るか」
「……でね、マルコさん怒らないでね」
「ん?どうした?」
「歩くの疲れてきたっ……!」
つまり、これ以上歩きたくないという意味。出発のときおとなしく車を選んでいれば良かったのにまったく。
まあ彼もこうなることを分かっていて徒歩を承諾したので、彼女を責めることはない。
「おんぶしてやろうか?」
意地悪く笑う彼はとても楽しそうだ。
「いや、それはちょっと……」
「そうか?んじゃタクシーだな」
ごめんなさい……!と謝る彼女に彼は笑顔を見せた。この男、どこまでもやさしい。

続きはまた今度。

to be continued.