週末の夜、オフィスからほど近いレストランに集まったのはアイスバーグ社長、サッチ、カク、パウリー、そしてマルコさん。おいしい食事と楽しい話題に酔いしれて店を出ようとしたとき、突然私の名前を呼ぶ声が響いた。

「Nameちゃん!」

なつかしい声、呼び方、思い当たるのはただひとり。

「サンジ……?うそ、久しぶり!」
「久しぶりだな!ちらっとフロア見たら、Nameちゃんのこと見つけて驚いたよ」

コックコートとサロンをまとった彼。視界の端できょとんとする一同をよそに、私たちはさらに盛り上がる。

「元気にしてたかい?」
「うん!サンジも元気だった!?」
「もちろん!」
「よかった!あ、職場がすぐそこでね、このお店ずっと気になってたから会社の人たちと来てみたの」
「そうか、すごい偶然だね!」
「ね、まさかサンジが働いてるとは思わなかったよー!」
「Nameちゃん」
「ん?」
「ここね、おれの店なんだ」

夢を叶えた人の、特別な笑顔。あまりの眩しさに感極まってしまう。

「すごい……叶えたんだ……おめでとう……!」
「ははっありがとう。あ!これ、名刺。次来るときは連絡くれるかい?サービスするからさ」
「もちろん!おいしかったし雰囲気もいいし、近いうちにまたぜったい来るね」
「お待ちしてます、レディ」
「はは、そういうところぜんぜん変わってないなあ」
「Nameちゃんはさらに綺麗に変わったね」
「ほら、そういうところ」

それじゃあ、と笑顔で別れて店を出る。先に外に出ていたみんなと、知りあいの店だったのか、そう、なんてやりとりをして、今週もお疲れさまでしたと解散になった。

「あ、マルコさん」
「ん?」
「食事の最中に気づいたんだけど、会社にUSBメモリ忘れちゃったの。持ち帰って片付けたい仕事があるから必要で……悪いんだけど取りに戻ってもいい?」
「もちろん」
「ごめんね……!」
「いいよい。酔い覚ましにちょうどいい」

ビルの裏口に行き、顔見知りの警備員に事情を伝えると快く入れてくれた。
昼間はもちろん、残業中ともまたちがう雰囲気の社内はどこか不気味で、見てはいけないものに遭遇してしまったりするんじゃないかと妄想が広がってしまう。マルコさんと一緒でよかった。もしひとりだったら、警備員のおじさんに付き添ってもらう、イチ大人としてあるまじきことになっていたかもしれない。

「えーっと……たしか社長のデスクに……あった!」
「大丈夫か?」
「うん!じゃあ帰ろっか。付き合ってくれてありがとう」
「いいよい。でも、」

するりと腕を掴まれ、迫ってくる影。

「わ、待っ……!」
「このくらいの報酬はもらってもいいだろ?」
「も、もちろん……!でも帰ってからに、」

言葉は遮られる。
顎に添えられた指が、かさなった唇に隙間をつくり、するりと侵入した舌が私を求めてきた。
真夜中の静かなオフィス、ダウンライトしか点いていない社長室、熱っぽいキス、理性を崩されるにはじゅうぶんな要素。息つく間もなく身体を反転させられ、強制的に目の前のソファに膝まづくことになる。
今さらだけれど、さすがにこの場所でこれ以上はまずい。

「待っ……マルコさん」

背後から覆いかぶさってくると同時に、腕が服の中に侵入してきた。胸の先端を巧みにもてあそびながら、うなじ、首筋、肩、とマルコさんの舌が這っていく感覚に意識が朦朧としていく。

「っ、は……」
「……まさかおれも、会社の人たち、に入ってるんじゃないだろうねぃ」
「……え?」
「さっきの昔の男だろい」
「なん……で、」
「男の表情でわかった」
「あっ、や……」

下半身に手が伸びたとき。

「さすがにここではまずいねぃ」

続きは家でゆっくり。マルコさんは、そうにっこり笑った。
この世に存在しないものより、嫉妬心をぶつけてくるマルコさんのほうがよほど恐ろしいとは言わないでおこう。

「で、昔の男だろ?」
「そうですよ……!」
「なんで隠すんだよい」
「や、わざわざ言うことでもないかなって思っただけで、隠したつもりは……!」
「へえ。それにしても随分キザな男と付き合ってたんだねぃ」
「会話聞いてたのね……!」

あなたも相当ですけど、と言うのもやめておいたほうがよさそうだ。家に帰ってからが怖い。



to be continued.