※前話の続き

15:00

ただいまーと二人の声が重なる。
荷物を置き、ソファに寝転がる彼を彼女はほほ笑ましそうに見ながら飲み物を用意しはじめた。
「はい、これ飲んでゆっくり休んでてくださいね」
「Nameも休めよい。ほらここ座って」
「えー買ったもの広げたい」
「それはあとで」
逃がさない、とばかりに腕の中へ彼女を閉じ込めた。


15:17

二人でテレビを見ていると電話が鳴り、彼はそれに出るなりのそのそとソファから起きあがってPCを開きはじめた。追いかけるようにして、ひとり画面を眺め続けていた彼女の電話も鳴る。
「もしもーし。サッチ?どうし…………えーーーっ!?」
盛大な雄叫びに、彼は肩をびくっとさせて振り向いた。もちろんキーボードを叩く手も硬直している。それに気づいた彼女は、ごめんとアイコンタクトを送り別室に移動。


15:30

別室から彼女がそそくさと戻ってきた。
「どうしたんだよい?」
「言いたいけどその仕事終わったら話す!早く終わらせてください!」
わくわく顔の彼女に釣られて、わかったよいと彼は笑った。


16:00

「よし!終わった」
大きなソファの背もたれを跨ぎ、また彼女を腕のなかに閉じこめる彼。
「で、どうしたんだよい」
「サッチがね!」
「サッチ?」
「彼女できたって!」
「へェ」
「あれっ!?反応薄い」
「あいつの相手なんてしょっちゅう変わるじゃねェか」
「今回は事情が違うの!ずっと友達だった仲のいい子とね、」
興奮気味に語りだす彼女。自分のことのように喜ぶその姿が彼にはとても可愛らしく映っているのか、にこにこしながら相槌をうつことすらも忘れて、時々彼女に「ちゃんと聞いて!」と叱られていた。


17:00

やけに静かだと思ったら、くっついたままソファでうとうとしている二人。多忙な彼らだから日頃の疲れが溜まっているのだろう。
「…………」
「…………」
「ダメだっ、ねむい……!」
「んーどこ行くんだよい……」
「寝落ちしたら困るから先にお風呂済ませようと思って」
「早くねェか?まだ五時……」
ひきとめるのを聞かず、彼女はさっさとバスルームに消えていった。


18:00

キッチンに立つノーメイクの彼女。夕食の準備でもしているのだろう。
ソファで寝ていた彼がもぞもぞと身動ぎをしはじめたと思ったら、普段よりいっそう眠たげな目をしてむくりと起きあがった。
「……Name」
「あ。起きた」
「……悪い、寝ちまったよい」
「まだ寝てていいですよー」
「いや。風呂入ってくる」
のっそりと起き上がり、リビングを出る前にキッチンに寄り道。
「……うまそう」
「味見する?」
ひとくち分スプーンで取って彼の口に運ぶ彼女。さっきまでの睡魔に憑りつかれた顔はどこへやら、うまい!と言いいきって髪にキスを落とした彼は満足そうにバスルームへ消えていった。


18:30

ダイニングテーブルに並べられた夕食。といっても白米やみそ汁などはなく、手の込んだ(ように見える)酒の肴たち。家飲みというアレだろう。
「かんぱーい」
「乾杯」
昨晩からずっと一緒にいるというのに、話題は尽きない。
「それにしても、サッチ本当に良かったー!彼女に会ってみたいなぁ。あ!今度四人で飲みに行きません?」
「呼ぶか?今から」
「えーやだ」
明日も休みだし、二人だけでゆっくりしたいと呟く彼女を見て彼は笑った。

19:45

お酒と、酒の肴何皿かと一緒にソファのほうへ移動した二人。どうやら映画鑑賞に入るようだ。
「あ、これがいい」
「観たことねェのか?」
「あるけど、子どもだったし改めて観たいなーって」
豪華客船、身分違いの恋。世代の者ならこのキーワードだけで分かるだろうあの名作。氷山、沈没とまで加えれば世代じゃなくとも大半がタイトルくらいは知ってるはず。


20:20

「豪華客船……素敵……!行こうマルコさん!ポーカーで当てよう!」
「……色々無茶があるよい」
女とは夢見がちな生き物だ。


23:30

画面にはエンドロールが流れている。
なんでジャックだけ死んだんだ、どうにかして一緒に板に乗れなかったのか、と激しく泣く彼女。
「それに最後、ダイヤの、ネックレスっ……海に、沈めたの……もったいなさすぎるっ……!!ううっ、高値つくだろうに……!」
「結局そこかよい」
震える背中をさすりながら、彼は冷静な反応をみせた。


23:35

「……マルコさんがジャックでも、自分の命捨ててローズを助ける?」
「ローズがNameだったらねぃ」
おお、いけめんな返事だ。しかし彼女は、ワァァそんなの嫌だマルコさんがしぬなんてダメだとさらに泣く、なんとも面倒な女。それでも彼はやさしく接するのだからすごい。
「大丈夫だよい。大抵のことじゃ死なねェ。こんな可愛い彼女を置いて死ねるかっての」
「……!マルコさんすきっ……!」
そろそろこうして実況するのも馬鹿らしくなってきた。が、二人が眠るまでは見届けなければ。


23:45

「あはははははは!」
さっきまで泣いていたかと思えば、今度は地上波のお笑い番組を観て大笑いしている。なんなんだ。
「Name。次なに飲む?」
「あ、自分で持っ、」
「いいよい。今日買った赤、一本開けてみるか?」
「うん!」


23:48

ステムがないカジュアルなワイングラスを二つ持ち、向こうのキッチンから彼が戻ってきた。
「ありが……」
「キスしてくれたら渡すよい」
「キスしてほしいなら渡して」
もーそうやってマルコさんは少女漫画の男子みたいなこと言って、と笑う彼女。観念してグラスを渡すと、短いキスがひとつ。それを合図にしたかのように、彼はふたたびグラスを取り上げて強く彼女の唇を塞いだ。


23:49

「っ……、マルコさ、酔ってるの?」
「全然」
まあ無理もない。さらされた生脚や開いた胸元、露出度の高いルームウェアでほんのり顔を染めていれば誰だって彼のようになるだろう。
「わ、待って待って、」
「待てねェ」
「んっ……」

予定変更。もう見ていられないから実況はここまで。
いつか機会と勇気があれば、これから先のような出来事もまたお届けしよう。


to be continued.