地球滅亡の危機。宇宙に送り込まれたクルーたち。
地球に落ちてくるであろう小惑星を宇宙で爆破するため、クルーの誰かひとりがそこに残り、手動で起爆スイッチを押さなければいけない状況。
誰が残るか。くじ引きで決まったのは、地上にいるヒロインの婚約者だった。
彼は決して悲観したり嘆くことはせず、誇らしいことだと胸を張って人生最後にして最大の使命をまっとうしようとする。
船外へのエレベーターに彼と一緒に乗り、見送ろうとするのはヒロインの父。婚約者の彼とは犬猿の仲。男手ひとつで大切に育ててきた娘との交際・婚約を、長いこと反対してきた。
別れのとき。父は扉を閉ざすスイッチを押し、船外にいた彼を無理やり引き寄せてエレベーターに押しこみ、入れ替わって船外へ出た。一瞬のことだった。
閉じた透明の扉。婚約者の彼は、どうしてだ、これは俺の役目だ、と泣き叫ぶ。扉の開閉スイッチはもう起動しない。
ヒロインの父は、お前の役目は娘を幸せにすることだ、とおだやかに告げる。
そうしてひとり宇宙に残された父は、地球の通信室にいる娘と画面越しに最後の言葉を交わす。
宇宙への出発前、喧嘩をしてしまっていた。言い争いのなかで「私はお父さんになんか似ていない!」と反発していた娘は、涙を流しながら「私のいいところは、全部パパにもらった」と画面の中の父に手を伸ばす。
ひとりの英雄が地球を救った。その地球には、たったひとりの父を失った娘が、婚約者をあついキスで出迎える。

誰もが耳にしたことのある、有名なエンディング曲が流れはじめた。


「ううう……何回観ても泣ける……!!」

何枚目かわからないティッシュを掴み、とめどなく流れる涙をぬぐって豪快に鼻をかむと遠くの玄関で鍵を開ける気配がした。その瞬間、実にくだらない、でも仕掛けてみたいいたずらが浮かぶ。
私がこんなに泣いていたら、あいつはどんな反応をするか。
とっさに画面と音を消し、ソファで膝をかかえて顔を埋めた。ちょうど部屋も薄暗くしているし、実に悲壮感あふれるポージングとシチュエーションだ。
リビングの扉が開いて、部屋が明るくなる。ビニル袋のこすれる音と、キッチンへ行く気配できっとビールでも買ってきたのだろう。案の定冷蔵庫を開ける音がした。

「Name。寝るなら部屋で寝ろ」
「………………………ねてない」

涙声で、鼻をすすってみせて、ちらりとキッチンのほうに向けて顔をあげると、ローの目がわずかに見開いた。それを見て笑いそうになるのを、ぐっとこらえる。

「おまえ……どうした」

声色は変わらないけれど、すぐにそばに寄ってきてくれた。

「落ち込んでんのか」
「…………ちがう」
「誰かに嫌なことされたのか」
「…………ちがう」
「どっか具合悪いのか」
「…………ちがう」
「目が痛いのか」
「………………」

目が痛いってなんなの。
噴きだしそうになるのを堪えるため、押し黙るしかなかった。

「……よくわかんねェけど泣くな。おまえが悲しんでるとおれも悲しくなる」

ぽつりと流れてきた言葉。
背中に降りてきた手のひらから小さな困惑が伝わってきて、それは私に大きな罪悪感を抱かせた。

「……実は、ね」
「ああ」
「……映画観て泣いてただけ」
「………………………………テメェ」
「嘘は言ってない」
「だったら早くそれを言え!」
「ゴメンネ」
「珍しくおとなしいと思ったら……!」
「ごーめーんーて!まさかこんなに綺麗に引っかかってくれるとは思ってなかったからさ。はは」
「ったく……」
「ねえ」
「なんだよ」
「私が悲しいとローも悲しいんだ」

からかい口調で攻める。んなわけあるか、と悪態が返ってくるはずだったのに、悲しいよとふつうに言ってくるから調子が狂ってしまうじゃないか。

「……なにそれ。じゃあ私がうれしいとローもうれしいの」
「そうなるな。Nameが笑ってるのは嫌いじゃない」
「ふうん。……じゃあローは今、うれしいんだね」

笑ってみせると、ローも苦笑いを寄越してきた。
その日の夜ベッドに入って、なんとなく、ローが悲しんでいるところに自分が遭遇するシチュエーションを想像してみた。私もなんだか悲しくなった。ローがうれしそうにしているのを想像してみると、私もうれしくなった。ローはこんな気持ちだったのか。

最近よく思う。
恋人なんかじゃない。友達とも少しちがうこの関係に名前をつけるとしたら、どんなものだろう。


to be continued.
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