なにも同棲生活じゃない。
当たり前のように食事を一緒にとるわけでもなければ、向こうの遅い帰宅を待っていることだってない。自分が思うがままの生活リズムで過ごしている毎日。
仕事が忙しいのか朝か夜にほんの一瞬顔を合わせるのは良いほうで、丸一日顔を見ないことなんて普通にある。最後に会ったのはもう四日も前だ。
こう、あまりにも姿を見ないと生きているのか気になりだしてしまう。
事件を追っているうちに、犯人に陥れられてそのまま拉致されてたり……なんてドラマの見過ぎな妄想も頭をよぎるわけで。
生きてる?とメッセージを送ってみようかな、なんて思うものの、干渉しない約束だしまあ別にいいかという結論になる。いったい私は何回同じ結論を出せば気が済むのか。

帰宅して玄関の靴を確認したところ、今夜もあいつは不在。
スーパーで買ったお惣菜と缶ビールをテーブルに置き、テレビを見ながら一人でげらげら笑っていると背中の向こうで聞いたことのない声色が流れてくるから。


「あのー……」

キャスケットを被ってサングラスをした男が突っ立っている。

「ぎゃーっ!!なに!犯人!?」
「えっ!?いや違う違う違う!違うから!!」
「誰!?なにっ!?」
「ローさんの部下のシャチっす落ち着いてください!!」
「……部下……!?」
「そっす!忘れた資料を取ってきてくれって頼まれて、鍵預かってきたもんで・・・誰もいない時間帯だって聞いてたんすけどね……!」
「そういうことですか……!あーびっくりした、てっきりあいつに恨みを持った犯人が……!」
「え?」
「いや、なんでもないです」

あの野郎。人を寄越すならメッセくらい入れとけっての。驚いたのはいいけどめちゃくちゃだらし無い姿見られたじゃん一人で笑ってたじゃん恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。
いや、こうなることを分かっててわざと・・・あり得るな。


「あ、申し遅れました。彼とは諸事情があって、」
「ローさんから聞いてますよ。Nameさんですよね」
「うわあああ!もう一人いたか!びっくりした!」

背後からの声にまた体が飛び上がる。いつのまに回り込んできたんだ。

「あー失礼。てっきり気付いてるもんかと」
「い、いえ……!こちらこそ失礼しました……!」
「シャチと同じく部下のペンギンと申します」
「Nameと申します。えーっと、忘れ物、でしたっけ?」
「はい。もう部屋から取ってきたので行きます」
「あ……そうですか。お疲れ様です」

まだ心臓バクバクしてるよ。あいつが帰ったらたっぷり苦情言わなくちゃ。
いつ帰ってくるのか知らないけど。

「……あの。刑事ってやっぱり忙しいんですか?」
「え?」
「いや、あまりにも姿見ないから、少し心配かなーって」
「ああ。安心してください!それなりに忙しいっすけど、ローさんはおれたちが全力でサポートしてますんで!」
「心配してくれる人がいて羨ましいな」
「ほんとだよなー。なるべく帰るようにおれらが言っておきますね!」
「あ、いえ、そういうわけじゃ、」
「じゃあ突然すみませんでした!また今度ゆっくり飯でも行きましょうっ」

なんか誤解されたような気がするけど。
それにしても、俺様先輩で煙たがられそうなイメージだけど慕われているようで意外だ。まぁわりと、すこーしだけ(ほんのすこーしだけ)優しいところもあるしなあ。
いや違う。もしかしたらあの後輩二人はドエムなのかもしれない。











「そんなとこで寝たら風邪ひくぞ」
「わあああ!」
「なんだ。起きてたのか」
「ねえ、刑事ってみんな気配消せるの……!?上忍なの……!?」
「おれは暗部所属だ」
「おお。知ってるねーヤマト派?カカシ派?」
「イタチ派」
「許せサスケ、これで最後だ。……あー泣ける」

ひとりモノマネが終わり上半身を起こして向き合う。
脱いだジャケットを背もたれに掛けたローはそのままネクタイを緩めて、そんな王道ワンシーンがきちんと様になるからすごい。


「そうだ。部下の人に会ったよ。っていうか寄越すなら一言連絡してよね驚くじゃん」

おかげでソファでダラけてるおっさんみたいな姿見られたし、といかに恥ずかしい思いをしたかを訴える。

「もし風呂上りで全裸だったらどーすんの!」
「別に。子どもの裸と変わらねェだろ」
「あー」
「納得するのか」
「せざるを得ない」
「そういや心配してるんだって?」
「げー!あのサングラスが言ったの?!」
「仕方ねェ。なるべく帰るようにしてやるから」

馬鹿にした笑みを浮かべて。
し、してないよ!なんて反論するのもなんだか幼稚なやり取りで照れくさいから。

「そりゃ心配だよー。犯人に連れ去られたらどうしようかって考えちゃうもん」

わざとらしい口調とため息を披露する。


「そりゃドラマの観過ぎだ」
「いやもっと感動してよ」
「許せName。また今度だ」
「なんでそこでノッた」

to be continued.
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