すべてがうまくいく
世の中ではないけれど、
愛することは究極の自由だ
世の中ではないけれど、
愛することは究極の自由だ
Story 2
10歳の少年ローがロシナンテに刃を剥いたのは、ロシナンテがファミリーに戻って約1年後のこと。
問うべきか放っておくべきか迷ったけれど、なんとなく気掛かりだったから声を掛けた。
「傷の具合どう?」
「見てたのか」
「結構深かったんじゃない?痛むでしょ」
「・・・あいつの方が痛ェさ」
「あんたその性格、いつか命取りになるわよ」
「ハハ、良いんだ。おれはこれで良い」
「・・・・・・そう」
何故だろうか。
元帥から聞いたことがあるけれど、彼が子どもの頃体験したことは並大抵じゃない。ドフラミンゴのような人間になってしまうのが正常だとも思える程のことなのに、そんな気持ちを持つなんてどうかしてる。
自身を顧みない性格で、いつか何かの犠牲になってしまいそうな彼を失いたくない。そう強く思い、気付いたら私は座ったロシナンテの大きな体をきつく抱きしめていた。
刺された傷は、ローの痛みを思えば少しも痛くなかった。痛くなかったけれど、Nameのあたたかく柔らかい感触が妙に心地よくて、人を殺めることを教えられたその手はやり場のないおれの気持ちを癒してくれたのだ。こんな場所にいるべき人間じゃねェ。Nameだけじゃない。ファミリーの子どもたち、そしてローも。
「“お・か・きー!!”」
「“あられ” おれです」
「ああ・・・ロシナンテか。任務はどうだ?」
大まかな報告をした後、本来は任務以外の話はあまりするべきではないのだけれど誰かに聞いてほしい衝動に駆られ、Nameの話をしていた。途中で元帥が思わぬことを言って話を遮る。
「おまえ、それは恋だな」
「・・・は、」
良い歳したおっさんにはあまりにも似合わない単語だ。
何を言ってるんですかと呆気にとられた返事をするおれをまったく気にもせず、上司としてでなくお前を拾ったいわば親代わりとして言う。元帥はそうして語りはじめた。
彼女はCP9、お前も元天竜人であり、あのドフラミンゴの実弟であり海兵で、お互い潜入捜査中の身。普通とは言わないかもしれんが、それなりに年頃の男女だ。しかも捜査中の組織内では同じ秘密を共有する、お互い唯一の存在。そのような感情を抱くのも何ら不思議なことじゃあない。
そう穏やかな口調で促され、おれはそれ以上何も言うことが出来ずに今日のところはと電伝虫の受話器を置いた。元帥も大概甘い人だ、まったく。
潜入前の海兵時代にそういったことは多少経験してきたが、確かにこの妙な感情は単なる同情ではなく恋だの愛だのの類いだろう。
・・・嫌いな感覚ではない。
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