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どこ行く? きみと!

人ポケ

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 する、とキャンバスに筆を滑らせる。毛先にまとうは淡い水色、それはこの晴れ渡る空のように爽やかなスカイブルー。
 平筆で大胆に空を形づくり、絵の具が乾かないうちに吸い取って雲の白を整える。歪んだり不自然になったりしているところは乾いたあとで色を抜き、微調整を重ねるのでとりあえずは問題ないだろうか、雲の際に薄紫やかすかな黄色を乗せて陰影をつくっておこう。もこもこと凹凸ある雲は見上げた空に浮かぶ綿と同じ色。ああ、ちょうど空をワタッコが横切っている。これもあとで付け足そうかと、コンノは小さく微笑んだ。
「ルー、ラァラ」
「ん。ありがとう、ラン」
 屋外で創作活動に励むコンノへ、彼のパートナーであるルージュラが上着を持ってくる。今日は少しだけ冷えるようだ、こおりポケモンたちにとってはありがたい気候であるけれど、いくらこおりタイプの扱いに長けているとはいえコンノはただの人間である。もう40がすぐそこまで来ているということもあり彼はそれほど若くない、つまり寒さは毒というわけで、ゆえに彼のことをよく知るルージュラがそっと自宅から防寒具を持ってきたという具合だ。
 愛しいパートナーの気遣いにコンノは柔らかく微笑む。コンノにとってこのルージュラ――ランはもはや半身、妻にも等しい存在であった。人とポケモンという種族差はあれど彼女はかけがえのない無二の存在で、ランなくしては生きられないと言っても過言ではないだろう。愛おしい、そう思う気持ちに種族の壁はきっとない。――少なくともこの2人に関しては、の話だが。
「キリのいいところまで進んだら少し散歩に出かけようか。確か劇場で新しい演目をやるはずだから、2人で見に行こう」
「ラァ!」
「あはは、早く描き進めないとね」
 メガネの奥にある蒼い瞳が、音もなくすう、と細められる。普段人が良さそうに柔らかく笑むそれとは違う、画家としての集中。ただ一心にキャンバスを見つめ、まるで世界と対話するように彼はその手で絵をえがく。人と、ポケモン、そして青、その3つが等しく調和を果たした彼の絵はカバタのみならず数多の地方に名を轟かせ、時おり彼や彼の作品を目当てに他地方から来客すらあるほどだ。
 ザクザクと勢い良く、けれど繊細に形づくられる彼の水彩画。絶え間なく動く彼の筆先をランはひたすら愛おしそうに見守っていた、この時間こそが今までもこれからも決して変わらない、2人にとって適切で適度な距離感である。背中を預け、背中を見守り、時にはバトルで最良のパートナーとして共に立つ。人と人ではなし得ない関係を、カバタでこそ積み上げられる歴史を、コンノとランは持っていた。
 きっと、それは、必ず、何を前にしようと切れることない絆である。2人だけの、2人だからこその形がここにあるのだった。

20170327
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