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うわさ話はほどほどに

 目の前にいる2匹のポケモンは、マグマ団に入団したとき支給された子たちだった。ドガースとドンメル、両方メスなのはあたしが女だったからだろう。悪の組織とはいえその辺はそれなりに配慮をしてくれるらしい。
 ふ、とドガースの体に触れてみる。バルーン状の体はしかしあたたかく、この子がちゃんとしたポケモンで、生き物で、今このときを確かに生きているのだと控えめに手のひらへと伝えてくれた。あたしが撫でれば心地よさそうに目を伏せる姿は、ドガースというあまり一般受けしない種族に反してとても愛らしく見える。そういえばこうやって触れあったことなんて数えるほどしかなかったな、そんなことが頭をよぎった。出会った頃には酷かった異臭をあまり感じなくなっているのは、あたしの嗅覚が麻痺したからなのだろうか。
 ひとしきりドガースをなでていると、ふと足元にドンメルが擦り寄ってくる。ヤキモチでも妬いたの? そんな文句が自然と出てきたことに驚いたが、しかしドンメルにそれを否定する様子はない。ごめんね、そう言ってその場にしゃがみ込めば、ドガースも低空に切り替えてあたしへ寄り添ってきた。衝動のままにドンメルを抱きしめる。ぽかぽかと火照る体温は冷えきった体にとても心地いい。ドガースとドンメルはどこか照れくさそうに顔を見合わせ、そして穏やかに笑っていた。あたしは、なんだか泣きそうになっている。
 ポケモンが嫌いなわけじゃない。むしろポケモンは大好きだ。けれどあたしはポケモンが恐ろしい、何故ならこの子たちともいつかお別れが来るかもしれないから。
 この子たちだけじゃない、とにかくポケモンと触れ合うたびによぎるロコンとの思い出があたしをじくじくと蝕んでいる。どんなに楽しくてどんなに幸せでどんなに大好きでどんなに必要でも別れなんてものは呆気なく無慈悲に訪れるし、どれだけ抵抗しようともそれは簡単にあたしから大切なものを奪ってゆく。あのときの家族のように、友だちのように、恩人のように、そうしてあたしは一度すべてをなくした。
 何より今あたしはマグマ団などという世界を巻き込んだ悪事を目論む組織に所属しているのだから、いつ何が起きてどんな報いを受けるかわからない。こんな不安定で危険な環境では、またなくす。またさよならする。また死んでしまう。また独りになる。――怖い、それはとても怖い。
 だからあたしはこの子たちとも極力触れ合わないように努めていた。そうすればいざというときにあたしも、そしてこの子たちも悲しむことはないだろう。大して関わりも愛着もなかったパートナーが死んでしまったとして、一時の感情の乱れはあれどそれは新しい出会いで拭えるものだろうと思うし、そうでなければいけないから。
 けれどなんだか止められない。何故だか何もおさまらない。こうしてあたしはこの子たちと触れ合って、寝食を共にして、抱きしめて、寄り添って、日々を過ごしてしまっている。
 どうしよう。あたし、この子たちが愛おしいの。この子たちを失いたくないの。この先なにがあってどんな目に遭おうとも、この子たちとは決して離れたくない。そんなことを考えてしまう。
 そして、そう思ったときがまさに別れの前兆なのだとどこかの誰かが囁いていた、根拠も何もないうわさ話にひどく怯えてしまうのだ。

20170209
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