ortr | ナノ

01

「――アローラよ! 俺は、帰って、きたぁーーーっ!!」
 大柄な体躯をめいっぱい伸ばしてひと声。ハウオリシティ・ポートエリアで誰ともつかない相手へ――否、このアローラという大地へ呼びかけるのは1人の青年だった。テールグリーンの髪は爽やかな風によくなびき、太陽の光を浴びてきらきらと輝いている。年齢はおおよそ30を越えているようだがそのハツラツとした様は年齢より若々しく感じられ、しかしそれを未熟だの落ち着きがないだのと思わせないのはどこか漂う貫禄のなせる技だろうか。うんと背伸びをして深呼吸、アローラの熱い空気をこれでもかと吸い込んた彼は、まだ乗船所内にいる連れを振り返って声をかけた。
「ミト、ミート! ほーらおまえも早く出てこい、風が気持ちいいぞー!」
「…………あつい」
「おっと、そうだな、悪い。そんじゃあこいつに頼むか、ねっ!」
 ぽおん、と放り投げられたモンスターボールから現れたのはフワライドだった。まあるい体をふっくらとふくらませると、フワライドは重い足取りで出てきた「連れ」――ミトの上にポジションを定める。庇の役割を担おうとしているのだろう。
「そいつならいざってときも何とかなるだろ、ゴーストタイプだし」
「……ん」
 ありがと、カイト。ふんわりと笑うミトにつられて、青年――カイトも眩しい笑みを浮かべた。
 大柄で存在感あるカイトと違ってミトは至極華奢であった。漆黒の髪に雪のような白い肌、真っ赤な瞳は影になろうとも鈍く発光しているかのようにひどく印象的である。年は10代後半ほどだろうか、カイトとは親子ほどの年の差があるように見える。何よりその造りものめいた容姿は怖いくらいに美しく、実のところ船のなかでもことあるごとに声をかけられていたのだ。フワライドはおそらく用心棒でもあり防波堤でもあるのだろう、もっともその稀有な存在感はある意味で道行く人々の視線を奪ってしまっているが。
「んじゃそろそろ行くか、アローラは美味いもんいっぱいあるぞー」
 す、と自然にカイトがミトの手を取って歩き出す。ミトにそれを拒む様子はなく、むしろ待ってましたと言わんばかりに彼の行動を受け入れた。
「……全然違うね」
「ん?」
「海。シンオウとも、カバタとも繋がってるはずなのに」
 港から望むは広大なアローラ・ブルー。空を仰げば飛び交うキャモメやぺリッパーが数多おり、まるで彼らへ手を伸ばすかのようにケイコウオが跳ねてはきらめく。決して静かではないが騒がしくも感じない、心地よいアローラの声にミトは瞳をとじて聞き入っている。
「きらいじゃない」
 素直じゃない連れの精いっぱいの褒め言葉に、カイトはアローラの太陽にも負けない笑みを浮かべた。



 ハウオリシティのショッピングエリアに差しかかると、まずカイトが目を向けたのはこの街の市場だった。人もポケモンも数多が行き交う街ゆえか品揃えも豊富であり、またどの食材も瑞々しく食欲をそそる。モモンのみとオレンのみをいくつか頂こうか、そう思案してきのみ売り場の主人に声をかけた。
「お2人さん、観光かい? アローラはいいとこだろう」
「へへ、ほんとだぜ。長年離れててもやっぱいいね、帰ってくるとホッとするよ」
「おっと、お兄さんアローラの人かい! こりゃあ失礼しちまったね、サービスしとくよ」
「ラッキー!」
 紙袋いっぱいのきのみを受けとるカイトは満面の笑みを浮かべていた。早速そのなかのナナシのみをひとかじり、するとその笑みはさらに濃くなる。
「あー、やっぱアローラはいいねえ。カバタもそうだけど良い人がいっぱいだ。俺は人に恵まれてんなあ」
 うんうん、と頷きながら言うカイトを見つめるミトの目はひどく愛おしそうだった。ぷわぷわと浮かぶフワライドと市場の主人が顔を見合わせて笑う。
「随分アツアツなようだけど、お2人さんもしかして――」
「よくぞ訊いてくれました!」
 目にも止まらぬ速さでナナシのみをぺろりと平らげたカイトが、フワライドの影から出ないようさり気ない注意を払いつつミトの肩を抱き寄せる。満更でもないのだろう、ミトの白い頬はほんのりと桜色に染まった。
「もちろん! 俺たちは! 新婚旅行だ!」
「……ばか」

余力があればシリーズ化したいです
20161222
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -