星屑は明け方に放り捨てた | ナノ




 寮の屋上でみる夜空。その夜空で輝く星、あれは既に燃え尽きた筈の星でそれが何故か遅れて地球に伝わり、未だに輝いて見えているのだと何処かで聞いた気がする。

 脳に物事を詰めるのは人より若干苦手な燐はそれ位の理解しかない、ただもし燃えているのならその炎はどれくらいなのだろう。もしかして自分が生み出す炎くらいなのかとぼんやり考えた。

 残暑だというのに変わらず暑いが屋上には心地よい風が吹いていて、前髪を勝呂に貰ったピンで挟んで涼めば部屋にいるよりずっと涼しい。
 心地よさから細めた瞳でちらりとそんな暑さなど気にしないと飄々している隣、アマイモンへ向ける。そのボロッとした上着やらも暑くないのだろうか。

 何だか燐は無性にイラッとする。暑さで短気を起こしているのは自覚していたが何か言ってやろうと口を開いた。

「お前さ、…俺が突然他のヤツ好きになったらどうすんの?」

「…はあ」

 我ながらに意地の悪い質問だと燐は思う。悪魔相手で、しかも性別が男である事さえも知りながら、アマイモンとは想い合う仲だ。
 実は悪魔と付き合うというのは案外大変なものだ、悪魔は滅多に我慢しない、欲求に素直だ。特に思うが侭に行動するアマイモンにいつも振り回されっぱなし、だというのにアマイモンは燐に振り回されて大変だと言った時は頭のとんがりが凹む位に思いっきり殴ってやろうかと思ったものだ。

「どうせお前の事だから相手ごと殺すとか言うんだろ?」

「いいえ、ボクは殺しません」

「へ?そうなのか、俺も、相手も?」

「はい」

 平然と答えたアマイモンの姿に燐は少し胸が締め付けられる感覚に陥る。何処までも勝手な話だ、感情に素直なアマイモンだからこそ余り見せる事のない怒りを露にしてくれるのではないかと心の何処かで期待していたらしい。
 燐は自分の醜さが何処か嫌になりながらそっかと呟けばそんな気持ちを知るよしもないアマイモンが、遅れてはいと返した。

 睫毛を震わせて掌を握り、拳を作って負の感情がムカムカと燐の胸中を支配していく。その中でアマイモンの言葉は続く。

「だって殺すのはキミだから」

「…は?殺すのが俺?」

「そうですよ、キミがキミを殺してその好きになったとかいう奴もキミが殺すんです」

成る程、全くわからん。アマイモンの返答は時折ずれており燐には理解し辛い時がある。何故例えの中とはいえ好きになった相手を自分の手で殺さなくてはいけないのだろう。俯きかけた顔を傾けて唸ると真っ直ぐにじーっと感情の揺らぎの少ない瞳が燐を捕まえる。
 この癖なのか逸らす事のないの真っ直ぐに捉える瞳が燐は好きなのだ、その瞳の中に映るのは自分自身のみ。その瞳に宿るのは純粋な好意、興味。
 苛立ちは失せて心臓がどくんと脈打つ、もしかしたら頬も赤くなるかもしれないと燐は誤魔化すように掌で頬を軽く叩く。

「んー、例えるならボクがベヒモスを抱えて、その人間の頭にかぶり付かせるようなものかな」

「全然わからねーよ、大体どっちが例えなんだ。俺がベヒモスでって言いたいのか?」

「どちらでもいいですよ」

そうか、やっぱり全くわからん。そう燐は理解するのを早々に諦めてふわあと欠伸をした。

「ボクは、キミにそいつを殺させます。もし死んでも嫌だと言ったらボクがそいつを殺す、けど殺させたの燐なのでボクは殺してません」

「えー、と?」

 首を傾げて頭に手を添えて脳に働けと指示を出す、向こう側で同じ様に首を傾げているがそれは今だけは思考の外へ。今の言葉を燐の脳に理解出来るように崩して整理する。
 つまりアマイモンが言いたい事はこうだろうか、その相手を殺すのは決定事項だが殺すの燐にさせる、もしくはアマイモンがするがそのどちらも原因は燐にあるのだから燐のせい。つまりは燐が殺した、と言いたいのだろう。

「ボクは邪魔なヤツが消えて、燐は罪悪感から他のヤツを好きになるなんてなくなる。めでたしめでたし」

「めでたくねーよ。つーか、…んだよそれ」

 殺す殺したなんて話は簡単にするものじゃないし、ましてや相手は悪魔だ。実際起こりうるかもしれない事で、燐は目付きを鋭くして怒るべきだ。
なのに、どうしてか。燐の頬が熱い。心臓もバクバクと血流がはやい。良くない事だと知りながらも心の何処かが喜んでいるのが燐にはわかった。

 気まずさからか、燐はふいっとアマイモンから顔を逸らして夜空へ。やはり爛々と輝く星、それから視線を逸らさずにいると火照った燐の頬も落ち着いていく。はあと息を吐き出すと同時に目の前が真っ暗になった。

 それがそっと目許を覆ったアマイモンの掌だと燐は遅れて気付く。

「…アマイモン?」

「だから、あまり見ないで下さい」

流石にボクもアレの壊し方はまだわかりません、そう淡々と呟く声。
 その言葉の真意は燐にわからない、冗談なのか本気なのか。ただ夜空の星にさえ嫉妬する欲深い悪魔、その悪魔のお陰で燐は暫く星をまともにみれそうもない。

 そうして、再び熱くなった頬を冷ますまで燐は夜風に体を預ける事となった。






星屑明け方に放り捨てた



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