用途を守りましょう | ナノ




 ぷかぷかと黄色いアヒルの玩具が湯の中を泳ぐ、それは一匹ではなく十匹以上浮いており大家族だ。それ程多くのアヒルが泳いでいるのに実際は多く感じないのはこの浴槽が大きいからだろう。寮にある浴場以上に大きいのに本来はたった一人の為に作られて使われている、燐からすれば贅沢な話だ。

「忌々しいセレブめ…」

 ギリと歯を噛み締め、今後方へいるだろうその人物を睨み付けたい衝動が燐を襲う。だが今はそれが出来ない。それは燐が今白いタオルを一枚腰に巻いただけで、後は何一つ身に纏っていないからだ。湯船に浸かっているのだからそれが普通なのだが、自分がそうならば相手、メフィストもそういう姿という事だ。
 邸に訪れて風呂に入れてくれ、と言った迄は良かった。メフィストも快く頷いた、しかし燐は言い忘れてしまったのだ。一人で入りたい、と。

「…いや、言わなくても普通は入って来ねーだろ。何で堂々と入ってきたんだ」

「燐君、何時までそちらを向いているのですか?座らないと体を冷やしますよ」

「ぐぐ、本人に悪い自覚がまるでねーのがまた腹立つ」

 メフィストは当たり前のように浴室に入ってきて、ぽかりと口を開けた燐を気にせず極々自然な流れで湯の満ちた湯船に身体を沈ませた。そして、その時に見てしまったのだ。
 燐にはない肉付きの締まった四肢、細身ながらもしっかりとついた筋肉。湯気と水滴で湿った髪は肌に張り付き、睫毛にさえ水滴で濡れて大人という色香が漂う。それだけで何故か燐は居たたまれないというのに右肩に残る歯形、あれはどう考えても燐の歯形だ。昨夜、声を堪える為に肩へ思い切り噛み付いたのを覚えているから間違いではないだろう。
ここまで揃えば顔を合わせるなんて出来る筈もない。

「聞いてますか?…無視されますと私も傷付きます。人の嫌な事はせずに相手の気持ちを察して行動しなくては、貴方も立派な大人になれませんよ」

「ならお前は既に立派じゃねー大人だな!」

 態とらしく悲しげな声に弾んだ声、それが燐の神経を逆撫でする。反射的に湯をバシャと波立てながら振り返りギッと睨み付けてから、しまった短く息を吸うも時既に遅し。ニィと歪な笑みでメフィストに迎えられて、湯が滴る掌が差し出して手招く。

「こちらへ来なさい、燐」

 こうなると燐は口答えが出来なくなる、笑みを浮かべながらもそのの瞳の光は強く、燐しか見ていないのが嫌でもわかる。恋する相手に求められていると知りながらもかわせる手段なんて恋に幼い燐は知らないのだ。ぐっと押し黙ると唇を尖らせて、ブツブツと悪態をつきながらその掌に招かれ侭に傍に歩み寄る。そしてメフィストの誘導に従い、背後から抱き締める形でその膝上にちょこんと腰を下ろすのだったが、

「…オイ、ケツに何か当たってるぞ」

「いやあすみませんね、私も男ですから仕方ありません。勃っちゃいました、テへ☆」

「ふざけんな!や、ヤらねーぞ!」

 臀部に当たる硬いソレに燐の顔は一気に真っ赤に染まる。湯に浸かってる為に仄かに赤く染まっていたが、今は尖った耳先まで真っ赤で可哀想な程だ。その耳先にメフィストは唇を押し当て、歯先で挟み軽く食むように甘く噛み付く。びくりと肩が震えて、燐の呼吸は一瞬止まった。

「どうしてですか?」

「ひ、っ、耳許で喋んなぁ、…湯が…入るし…」

「はい?聞こえませんなあ」

「──っ、ここですると湯が中に入るだろ、それが嫌なんだよ!」

 ヤケクソ気味に燐が怒鳴れば浴室なのでその台詞は室内によく響く、それは燐の羞恥心を煽り唇まで顔を沈めるとブクブクと空気を湯の中へ吐き出した。湯が入る、と怒鳴ったモノの燐には浴室でメフィストとの行為に及んだ事はない、風呂に一緒に入るのも今が初めてなのだ。珍しくメフィストから反論がなく、燐が怪しむと同時にメフィストが優しく囁く。

「それでしたら私に良い考えがありますよ」

 その悪魔の囁きは、自分にとっての良い考えではないのではないかと燐は危惧せずにはいられなかった。



♂♀



「う、っ…無理だ、って」

「無理ではありませんよ。ほら、もっとしっかり足に力を入れなさい」

 やはり自分にとっての『良い考え』ではない、と燐は思わずにいられない。浴槽の縁に両手を付いて、肩越しに背後から被さるメフィストを睨み付ける。普段から纏まった髪は水気のせいで解れ、汗か水滴か解らない雫は頬から顎に伝う。ドクッと燐の胸が高鳴り目線を急ぎ前に戻す、大人の男だと嫌でも認識させられる四肢、そして硬い熱。
 その熱は今燐の太股の間にあった。して欲しくなければ挟んで慰めろ、直訳するとそうメフィストは言った。溺死してしまえ、と内心強く思った燐だが今のメフィストには何となくだが逆らいにくい。恐怖や不安からでなく、言うならばその色気から羞恥からだった。

「う、…あっ、ん」

「っ、そうそう、お上手です」

 ぬるりと粘着質なものが湯と混じり太股の間をメフィストの性器が動くのがわかる。何回もした情事ではこの存在が燐の中を掻き回していて、熱を感じる余裕などない。けれど今回は違う、熱が、硬さが、太股の肌を通して理解出来るのだ。ぞくぞくと背筋が粟立つ、腕も震えてしまう。
これを受け入れているのだ、そう考えるだけで甘い痺れが段々と腰から沸き上がってくる。すると自然に下肢に力は入り、ぎゅっと太股で熱を挟む。はあ、と燐の甘く熱っぽい吐息から唇から漏れていく。

「っあ、乳首、やめろよ…っ」

「私だけ楽しむのは、不公平ですからね」

「っ、ん」

 メフィストの指先で乳首をきゅと先を摘まれ、びくりと身体が震える。嫌だと首を左右に揺らしてもぐりと指腹で潰すよう擦られ、甘い痺れが酷くなる。喉は乾き始め瞳は段々と強い意思の光が消えていく、ぬるぬるとした感覚で太股を這う熱。それにどうしようもなく興奮している自分に気付くも止められない。自然と物足りなさから腰を揺すってしまう、けれど頭の端に残る理性で逃げようと考えた瞬間、

「ひ、あああ…ッ!」

ぐちっと狭い孔を割って熱が奥へと強引に押し込まれた。
 目の前がちかちかとなり頭の中が真っ白になる。中に熱い性器と混じり湯が入り、熱い、気持ちいい。がくがくと震え始めた四肢では身体を支え切れず、浴槽にすがり付く様に上体が崩れて尻を突き出す体勢になる。そうするとますます深くなり、はっはっと燐の息が乱れる

「っ、おっと、失礼致しました。うっかりと入ってしまって、すぐに抜きますね」

「うあ、あっ、…んん…」

 ずるりと一気に抜けていけば物欲しそうに甘く燐は啼く。メフィストはそれを気にする様子もなく、先刻と同じように太股の間に性器を挟ませ、ぬるぬると動いていく。快楽を忘れられない燐は未だ余韻で指先を小刻みに震わせ、頭は既に熱気で回らない。とろりと蕩けた瞳の奥は快楽に落ちて、先程よりはっきりと腰を揺する。こんなことで堪えれなくなる快楽に弱い自分の身体が憎い、こうなれば後はメフィストの思惑通りとなるだろう、それは燐が悔しい。
今にも甘い声で懇願したくなる唇を噛み締め、浴槽の縁に額を擦り着ける。

「あっ、や、ひっ…んんーっ、湯が、っ!」

 そんな抵抗を嘲笑うように再度ぐっと腰を掴まれて強引に性器を捻込まれ燐は背を弓なりに反らす。背後は息の詰まった声、耳元での低いその声にぞくりとした感覚が背筋を這い上る。熱の塊が内壁をめくる様に出ていくが、次は完全に出てはいかずに再度ずちゅりと押し込まれ抽挿が始まる。
じゃぶじゃぶと湯が波立ち、身体は後ろから前へとぐいぐい押されて縁に掛かった指先にぎゅっと力を入れた。

「抜き、っ、ましょうか?」

「や、っ…もっと、中に…湯を入れ、っひ!あ、あ…っ」

 言い終える前に中を掻き回されて、燐は啼くしかない。熱気が立ち込める浴室の中で、逆上せてきているのか燐の頭はぼうっとしてきており、ただ波立つ湯の音だけが耳に残る。突如肩を掴まれぐるりと身体を反転させられ、ぐりと内壁が擦られて一瞬意識が奪われた。
 ふと、気付けばメフィストと向かい合う形。浴槽の壁に押し付けられて、燐の腕は支えを求めてメフィストの首に回る。脚も腰に絡めてすがり付くのも湯の中では楽だ。涙に濡れて歪む視界、メフィストの顔。汗で張りつく髪とそのまま流れて喉を濡らしている、眉を顰め、堪える余裕のない表情は燐の快楽を更に高めた。感じてくれてる、自分と同じで気持ちいいのだ、と。

「燐、っ、」

「あ、あっ、あ!俺もイイ、から…出るから、もうっ」

 掠れた声で名を呼ばれて、メフィストの限界を知ると燐はこくこくと首を縦に揺らす。次にごりとした箇所がメフィストの亀頭が押し潰すように突かれ、燐の視界は白く染まった。くらくらと視界が回る感覚、逆上せて気が遠くなるのだと自覚しながら白濁の液を受け入れ、そして吐き出した。段々と遠退く意識に荒い吐息とメフィストの一言が耳に響く。

「っ、…はあ、貴方特製のにごり湯の出来上がりですね」

 吐き出した白濁な液は湯に流れている為の表現だろう、ぐたりとメフィストに身体を預けつつも最後の力を振り絞る。そして、先日噛みついた歯形に上書きするようにキツく噛み付きながら、ああもうやっぱり溺死しちまえばいいのにと湯気の立ち込める中、強く燐は願ったのだった。




用途




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