笑うは本能か | ナノ


「ほら、答えなさい」
「っく、んん…」

 透明などろっとした液が性器の先端から溢れて、メフィストの手を汚す。汚してる側の燐には今罪悪感等はない、ある筈もない。何故ならば今彼は脅迫されているのだ。

「貴方は、はいと答えるだけでいいのです。そうするだけで二度と経験出来ない程の快楽を与えるとお約束しましょう」

 赤く色付いた尖った耳元でメフィストは優しく低く囁く、それは麻薬、猛毒だ。そう燐は理解していた。

「こと、わ…っあ、ッ!」

 断る、と言い切る前にメフィストが仰け反り晒した喉元に牙を立てる。最初は物を言わせぬ激痛を、けれど性器を溢れた液をのせくちゅりと鳴らして扱くとその噛み付きは甘く感じて、快楽は増す。

「では、貴方は首を縦に揺らすだけで構いません。」
「くっ、ん…っ」

 再度メフィストは囁く、誘う、堕落させようと。性にまだ疎く興味を持ち始めた燐にはそれはとても甘美な誘いにみえた。

「何も一生ではありませんよ、今一時的に貴方の躯は私のものだと、そう契約して頂けたらいいのです。」

 そう、とても簡単な事だと。何が簡単なのだと燐は怒鳴りつけたくなる、一時的にとはいえ自分の躯を自分ではない誰かが所有者だと認めるなんて、頭が良ろしくないと自負する燐ですら恐ろしい事だとわかる。

「ん、んんっ」

 ぶんぶんと否定の意味で頭を左右に揺らす。何時の間にか尻尾も同じように揺れていたが、それに燐は気付かない。
 頷くというのはメフィストに屈したようで腹立たしい。それに快楽でじゅくじゅくと溶ける燐の脳内にも羞恥心という欠片が残っている。

「それではこれならどうでしょうか?貴方は私の背に爪を立てるだけでいいですよ、今腕を回しているその背にね。」

 びくり、と背にすがりつくように白のマントを握り締めた指先が震えた。全て詠んでいるような誘い。爪を立てるだけなら…、けれど燐の頭の中から警戒する声が聞こえる、駄目だ、駄目だ、と。
 それを嘲笑うかのように尻の間を指先で撫で更に熱い肉を割って奥へと向かう。

「ひぃ、っ!」

 脚がびくびくと痙攣を起こす、自然と指先に力が入る。穴が容易に広がる訳もなくきゅうとメフィストの指を締め付け、燐は痛みに情けない声をあげて呻く。
 しかし、その痛みさえ快楽の前触れと嫌という程知っている燐は逃げようと本能的に足を動かす、けれどメフィストに抱え込まれた脚の足裏は空を蹴るだけで終わった。

「あっ、あっ、メフィ、スト」

メフィストの指は段々と増えては、ぐちょりと淫靡な音を立て始めて掻き回す。
 高まる快楽と強まる警報。駄目だ、駄目だ。でも、くそ、もう。もう堕ちる。
 燐は、目尻から溢れる水滴のせいで歪む向こう側に映るその弧を描く唇が世界で一番腹立たしく思えた。

「…いい子ですね、契約完了です」

 仕返しにと背に力いっぱい爪を立てたが、それを証として受け取った悪魔は嬉々として彼との契約を叶えた。


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笑うは脳か


(それとも、理性か)





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