※殴り愛、暴力表現注意
ゆらゆらと立ち上る蒼い、青い炎。それを背負う彼はなんてキレイで素敵なのだろう。無邪気な幼子の様にアマイモンは楽しそうに笑う。燐の口端から伝う赤い血、頬に残る鬱血の痕。これは全部が全部アマイモンが刻んだものだ。
ひゅっと空を裂く音と共にアマイモンの拳が躊躇なく燐の頬へ降り下ろす。
「ぐっ!」
鈍い打撃音が響く、しかし頬を殴られた燐は呻き上唇を噛み締めてただ眉を顰めるだけ。先程から絶えず燐の体から燃え上がる青い炎、それは周りを焼き付くしているというのに燐に痛みを与えている筈のアマイモン、何故かその彼に危害を加える事はない。それ所か身に纏うボロボロなマントでさえ焦げていないのだ。
「今回僕が殴った理由がわかりますか?」
「……、」
アマイモンの歪な笑みは消え、小首を傾げて何時もの感情が読めない顔をこちらに向ける。燐にわかる筈がない。元々こうやってアマイモンが暴力的になるのは何時も突然だ、この前は燐が勝呂を褒めた時、その前は約束の時間に数秒遅れた時、今回は雪男と出掛けるという話をした時だった。
「…君はいつもわかりませんよね。うん、だからこうしよう。全部捨てて僕のモノになって下さい。」
「……っ」
「思い出も、想いも、絆も、記憶も全部です。全部捨ててくれたらそれでいいです。」
そうすればもう悪い事一つ起きないとばかりに語る。燐には鎖が多いのをアマイモンは知っている。その鎖は友人だったり、兄弟だったり、仮の父親と思い出だったり。全てが枷となり、燐の心は拘束具だらけだ。それがアマイモンは何より腹立たしかった。
それが独占欲からの怒りだという事は既に理解もしていた。
「君だって僕が嫌いじゃない。だからこの炎だって僕を焼かない、そうでしょう?」
「……。」
「ねえ、聞いてますか?」
燐は何も答えない。それがまた腹立たしかったのでアマイモンは先程殴った頬とは逆を平手打ちした。
パンッと鳴り頬が赤を通り越して青黒くなる、痛みから瞳を眇めて唇を閉ざした。こうなると燐は頑として口を開かない。
そして燐はただ床に四肢を投げ出しアマイモンの好きなようにさせ抵抗すらしない、なのに燐の瞳奥、挑発的な青い炎は消えないのだ。
「僕は諦めませんよ。奥村燐の全てが僕が埋まって壊して奪って食べ尽くすまで、」
ぴくりと眉を動かすだけで燐はキツい眼差しでアマイモンを、その奥に潜む炎で焼き焦がす。そうだ、と気付く。これはアマイモンが好む闘いだ。この意思の強い彼をどう手に入れるか、どう壊すか。
「燐、好きです。僕はこの事については我慢しません、……悪魔ですから。」
青く燃え上がる瞳に焦がれた侭、喉元を右手でキツく締め上げながらもそっと唇を重ね合わせた。それはアマイモンにしては意外な程に優しく、純粋に重ねるだけのキスだった。
言葉を介さずとも瞳が叫ぶ
(これは殺し合いだと誰かが言っていただろう)
Thanks<空想アリア
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