◎記憶の欠片 ※アマ燐のようなメフィ燐のような落書き文 ※燐記憶喪失、暗め? 「お前、だれ?」 燐は壊れてしまった、肉体的ではなくて精神的に。そして全ての記憶を無くしてしまった。その理由は簡単だ、サタンの仔という止むことの無い中傷、燐という命自体の否定。表面的にはへらりと気にしてないという素振りに前向きな思考、それは祓魔師向きだと誰かがいった。 けれど、誰一人知らなかった。それは傷付く自分を殺していただけの演技だという事を。そして、その事実をあのメフィストさえも知る事が出来なかったのだ。もちろん、アマイモンも。 「…ボクは、アマイモンといいます」 「そうか、俺は……あれ、あー俺は、誰だっけ?」 鉄製のベッドに上半身だけ起こし小首を傾げる、頭や腕に白い包帯を巻く姿。この全ての怪我は燐自身の青い炎の火傷だ。自分を焼かないと思われていた炎は見事に燐の身体を焼き焦がした、そうなったのは燐が望んだ事だったのだろう。自分が焼けていなくなれば、と。 けれど、そうして暴走するように溢れ出た炎は近くにあったモノを何一つ燃やすことはなかった。 「キミは奥村…、いえただの燐。燐という名前です」 「りん、…燐か。そんな名前だったような、えっと、それで俺に何か用?」 何も知らない、初めて会った時より幾分か幼く見えてしまうのはあの時既に燐の心に深い亀裂が走っていたのだろうか、そう思うとアマイモンは両目を細めた。 燐が記憶を失った事はすぐ様騎士團内に広がり、今は処遇について話し合いが行われている。メフィストが言うには処分を求める意見が強く、その意見が認められるのは時間の問題だろうという事だった。それを聞いた時にアマイモンはぽつりと言った、燐を連れて行きます、と。それは問い掛けではなくて言い切った言葉、こればかりは兄に何を言われても曲げる気はアマイモンにはなかった。 けれどメフィストは、一言だけ呟く。好きにしろ、そう言ったメフィストは振り返らずに時間が記載されたメモを差し出してきた。そして、その指定された時間に警備が薄くなっており苦も無くここに来る事が出来たのだ。 「キミを、迎えに来たんです」 「迎え?」 「はい、ボクと来てくれますか?」 「……、いいぜ」 燐は暫く迷うように俯くが、何故とは聞かずにすぐに顔を上げると両口端を吊り上げて笑う。しかしその眉は垂れ下がり、頬を指先でカリカリと掻いた。 「何かさ、皆俺がここに居て欲しくねーみたいなんだ。黒い服着た奴らが時折飯持ってくるんだけど、すげえ怯えたっつーか蔑んでるっつーか」 「……、」 「その中で眼鏡かけたヤツはそんな事ねーんだけど、悲しそうで辛そうであの眼鏡のそういう顔を何か見ていたくねーんだ」 「燐、」 「後、ピエロみたいなふざけた格好したヤツとか無駄に明るく接してきたりするんだけどたまに悲しそうに笑うんだよなあ」 「燐、どうしたんですか?」 「あ、れ…」 ぽたり、ぽたりとシーツに滴が落ちていく。それが燐の瞳から溢れてぽろぽろと落ちていく。燐自身は泣きたい訳ではないのか心底驚いた表情で、蒼色の瞳を丸くしていた。瞳から落ちる滴、アマイモンは燐の青い炎が綺麗だと思っていたがこの涙も何より綺麗だと思えた。 けれど…、徐に腕を伸ばすとそっと掌で目許を覆い目隠しのように瞳を隠す。 「もういいんだ。…お休みなさい、奥村燐」 そう小さく囁くと、涙は一層溢れてアマイモンの掌を濡らしていった。 暫くして、扉が開けっ放しになった真っ白な病室、そこには最初から誰もいなかったように静まり返っていた。その部屋に千切れた包帯がベッドの上に散らばっている。そして、ただポツポツと残る涙の跡だけがそこにいた主の感情の欠片だった。 2011/08/14 20:34 |