だいありー | ナノ
◎これが恋だった


※落書きぶん
※アニメ青エク17話後、捏造













 空は闇色のカーテンが引かれて学園内では人影さえも殆んどない深夜。この学園から見る夜景が燐は嫌いではなかった。夜風が吹き付ける中に、この高い場所からよく見える輝く街の明かり。それが自分しか知らない宝物のようで子供の頃みたく胸が高鳴った。けれど今は何時ものように胸が高鳴る事なんてない。

 仕方がなかった、きっとそれが答えなのだろう。そう燐は自分に言い訊かせる。
 瞳に焼きついた青い炎、燃やさないでくれと懇願した心。燃えていくのはよくここに来ていた悪魔。

「流石に助けてやってくれ……は、言っちゃ駄目だよなあ」

 はは、と独り言と共に力のない乾いた笑い声が口から溢れる。ただでさえ燐は疎まれているというのに言える訳がない、もし口にしたとしても祓われる対象が増えてしまうだけだろう。
 けれど、それでも燐は言いたかった。なのに、弟の不安に満ちた顔や置かれている状況、それを許してくれる事はなかった。だから、誰かに祓われてしまう前に、その前に自分がやろうと決心した。

「あいつ、…結局ここにいる間は静かだったよな」

 燐は端から一人分だけ空けて座っていた。その位置に瞳を向けて眉尻を僅かに垂らす、今はいない隣の定位置。そこに座る悪魔は甘党なのか口にはよくキャンディをくわえていた、そしてそれを直ぐにガリガリと噛み砕き、勿体ないな味わえよと燐が指摘すれば、ではあげますとその時に食べていた半分割れた飴を差し出した。

 微妙に話の噛み合わない相手だったが、同じ時間を過ごす事が燐は嫌いではなかった。

「………、」

 胸をちくりちくりと刺す痛み。けれど燐は泣かないと決めていた。泣くのは弔うに近く、認める事だろうと燐は感じていた。そう、分かっているのに視界が歪んでいくのを止める事が出来ない。街の明かりは歪んでいき、細長い光りの線が散る。
 ぐっと下唇を噛み絞め、グイッと乱暴に目許を拭った。

 今抱くこの気持ちは気付くのに遅すぎたのだ。もっと早く気づけば良かった、そうすればあの時に違う結果を出せていたのかもしれない。

 勢いを付けて立ち上がるとズボンから一つ、カラフルな棒付き飴を取り出してそっとその空けた位置に置いた。そして、僅かに赤くなった瞳を細め、鋭い犬歯を見せて笑った。

「またな、アマイモン」

 そう言った声は何処か震えて、床を蹴るとその場から燐は消えた。
 暫く夜風に吹き付けられ揺れる飴。一際大きな風が吹き付けそれが宙へと放り出される瞬間、パシリと掌が、現れた人影が、それを掴む。

 その人影は飴の置かれていた位置に座ると、何も言わずにただガリガリと飴を噛み砕く音だけが何かを証明していた。







 

2011/08/09 17:12