@コロ豪鬼
@フリリク



俺は今まで普通に生きてきた。
サッカーサッカーサッカー、時に勉強。
なのに、男のアイツがこんなに気になるなんて。


アイツの背中に触りたくてたまらない、なんて。







帝国にいた時のアイツとはいつも正面から対峙していた。敵意剥き出しの笑みを零していて、でも時々透けて見える鋭い視線が忘れられなかった。
雷門に来たアイツには背中を預けた。敵意剥き出しの笑みは相変わらずだがほんの僅かばかり軟らかくなった物言いに口角が上がるのを誤魔化せなかった。

ポジション柄背中を預けるばかりであまり見ることのなかった背中。
いつもマントで隠された背中に触れたくて、たまらない。




ごくり、と唾を飲み込む音が聞こえたような気がした。いや、気のせいではない。それほどまでに今俺は緊張している。緊張しない訳がない。
今俺の目の前には触れたくてたまらなかった、アイツの背中があるのだ。アイツの、鬼道の背中、が。


マントを外した鬼道の背中は驚く程華奢で、更に黒のインナーがそのイメージを助長していた。触れるのを躊躇ってしまう。
そもそも何でこんなことになったのか。緊張で固まった頭では何も考えることが出来なかった。



「……その…、いい、のか?」

目の前の背中に声をかけると、ぴくりと肩を揺らした鬼道は「何度も言わせるなクズ!」と此方を向くことなく悪態をついた。耳がほんのりと赤い。

覚悟を決める。経緯を思い出せない思考は放棄して、この機会を逃すわけにはいかないとゆっくり手を伸ばした。



肩甲骨の下辺り。右の指先をついて、撫でるように手のひらを滑らせる。肩甲骨に沿うように動かした手に過敏に反応する鬼道。息を小さく漏らす音が聞こえて、俺も次いで細く息を吐き出した。

触る。撫でる。
脇腹の辺りを下から撫で上げる。背骨に沿って指先を滑らせる。
何度も、何度も。


なんという優越感。
今俺は天才ゲームメーカーと言われたアイツの、鬼道の背中に触れているのだ。

その事実が思考に更に靄をかけた。




「……っ!?」

ぶわっと体温が上がった。俺も、鬼道も。
右の手のひらを服の裾から忍ばせる。直に触れた肌は柔らかですべすべで、だが少し汗ばんでいた。


「っ、そこまで許してないぞ!ク、ズがっ!」

悪態をついても迫力がない。
右手だけでなく左手も滑り込ませてゆるゆると撫でた。ヒッ、と大きく肩を震わせた鬼道は一瞬天を仰いだものの、すぐに顔を俯かせて必死に声を抑えていた。背中が弱いのか、いつもの強気は身を潜めて小さく震える手のひらをキツく握りしめている。


ムズムズした。もっと、触れたくてたまらない。足りない。触りたい。
服を肩の辺りまで捲り上げて背中を露わにすると、左手を肩甲骨の辺りに置いてゆっくりと撫でる。勿論右手で、指先で撫で上げるのも忘れない。時々爪で優しく引っ掻くように触れた。


「っ…!ばっ…ぁ、」

晒された白い背中をふるりと震わせて拒否の意を唱えようとするが、俺が手のひらをゆうるりと動かすとそれすら叶わない。

気持ちいい。ずっと触れたかった背中に直に触れている快感。鬼道が俺の手で感じている快感。


もっと、もっと。

撫でる手のひらをそのままに、若干姿勢を低くする。ちょうど目の前に腰がくる高さ。
細い腰、白い肌、普段よりもほんの少し体温の上がった震える背中に、引き寄せられるように舌を這わせた。べろりと。


喉をひきつらせてビクンと大きく反応を示した鬼道は一瞬何をされたか解らない様子で、でも直ぐに舐められたのだと理解したのか赤く染まった顔を振り向かせるとわなわなと震えながら叫んだ。
「お、前…!ふっ…ざけるな!誰が…」そこまで許した、と言いたかったのだろうが言葉にはならなかった。その代わりに漏れたのは所謂喘ぎ声で、それを誤魔化すかのように口を閉ざしてしまった。


触る。撫でる。舐める。
肩甲骨を触る。脇腹を撫でる。背骨に沿って舐め上げる。
手のひらで。指先で。舌で。
何度も、何度も。
でも、まだ足りない。何か、足りない。



「…っは、鬼道」

触る手を止めない。
撫でる手を止めない。
舐め上げる舌を止めない。
もっと欲しい。


「ん、ぁ…!な、んだクズ…っあ」

足りない。
足りない。
足りない。
もっと、もっと。








「……………好きだ」

肩甲骨の間に印を付けるようにキスをした。



びくりと肩を揺らした鬼道はしばらくの間何も言葉を発さずにいた。
だが、好きだと小さな声でもう一度告げるとくつくつと楽しそうに笑う声が聞こえて、ゆっくりと此方に視線を寄越してきた。


「漸く言ったか。遅いんだよ、クズ」

にたぁ、といつもの笑みを零しながら言う鬼道に今度は俺の方が言葉を発せなくなっていた。
全て解っていたというのか、鬼道は。解っていて俺の戯言を聞き入れて、更に好きだと言わせるよう仕向けたというのか。
かなわない。流石天才ゲームメーカーと言うべきか。


呆然とする俺をそのままに、さっさと衣服の乱れを直した鬼道と正面から対峙する。さっきまでの震える鬼道は何処へやら、目の前には普段通りの笑みを浮かべる鬼道。


「さっきの言葉、もう一回言ってみろ」

眼前10cm、この距離で拒否など出来る訳がない。いや、そもそも鬼道相手に拒否など出来る訳がないのだ。


「………好きだ」

諦めたように呟く。
男相手に告白だなんて、気持ち悪がられても仕方ない。というかさっきの行為で完全に俺は変態扱いだろう。
そんな考えが頭の中をぐるぐる巡る。




「合格だ、クズ」

どういうことだ、と言葉を発しようとした途端。
唇に触れる感触。柔らかくて、暖かい。

キスされている。
そう思った時には既に離れていて、目の前にぺろりと唇を舐める鬼道がいた。




足りない何かが
見つかった瞬間だった。




back syndrome


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