@フィデモ
@主人と執事の主従パロ
@主人デモーニオ執事フィディオ
@フィディオ年上設定





俺、本当は命令なんて、したくないよ。



昨日は「命令」だと言ってベッドまで連れて行ってもらった。でも、ただそれだけ。

ゆうるりと手を取って支えるように俺を立たせて、そのままベッドへ。暖かい手とは裏腹な、あくまでも事務的な態度に零れる涙を止められなくて、ベッドの中でうずくまる様にするとふわりと毛布と布団をかけられた。本当に、それだけ。

確かに「ベッドに連れて行って」と言っただけで、間違ったことじゃない。でも、それがすごく悔しくて。命令以外のことは俺がいくら望んでても、何もしてくれない。
小さい頃はいつも俺のことを考えてくれて、俺が喜びそうなこととか、色々してくれたのに。


そんな思いがぐるぐる頭の中を回って、朝から仕事が手につかない。隣で書類を纏めているその人をちらりと見ると、いつも通りに整えられた机といつも通りのスーツ姿。いつもと違うのは少し長めの髪の毛を後ろで1つに縛っていることぐらいか。普段のさらりと首にかかる髪もいいけど、後ろで纏めてすっきりとした様もいいな、なんてぼんやりと思った。



「…デモーニオ様。お手が止まっているようですが?」


じっと見つめる視線に気付いたのか、ぴくりと眉を動かして視線を上げたその人とばっちり目があってしまった。少し睨むようなその視線を受けながら、綺麗な目だなぁ、なんて思っていると「仕事は終わったんですか」と近付いてくる気配。



「ねぇフィディオ。……手、繋ぎたい。」

ぽつりと言うと、傍まで近付いていた気配が止まった。


ねぇお願い。
何も言わないで、笑って、俺の手を取ってよ。
そうしたら、俺はまだ笑顔を作ることが出来る。フィディオの前で、笑っていられる。




「…それは命令ですか?」


カッとした。
命令とか、命令じゃないとか、何でそんなにこだわるの。
自分の意思で動くことを何故しないの、ねぇフィディオ。君の心は何処に行っちゃったの?



「………命令だったらしてくれんの?命令だったら、」


手繋いでくれんの?
笑ってくれんの?
遊んでくれんの?
傍にいてくれんの?

俺のこと、あいしてくれんのっ?


悔しい。悔しい。悔しい。
吐き出した言葉も、零れ落ちる涙も、自分じゃもう止められなくて。、苦しい。きつく握り締めた拳で乱暴に涙を拭って目の前の人をキッと睨みつけた。
、ハズが。


視界に入るはずの冷たい表情はどこにもなくて。代わりに映るのは、誰かの肩越しの景色。そして、暖かい何かに包まれてる実感。


訳が解らなくて涙の溜まった目をふるりと揺らして顔を動かすと、直ぐ傍に見える結ばれた髪の毛。少し長めの、さらさらの髪。


あぁ、フィディオだ。この温もりは、フィディオだ。
そう思ってだらりと下げたままの腕をゆっくり持ち上げると、確かめるように抱きしめた。
久しぶりに、本当に久しぶりに嗅ぐ大好きな香りに顔を埋めていると、少し困ったような声が降って来る。


「私は…、俺は、デモーニオ、の執事だから。命令じゃないと、ダメだと教わった」

仲が良かったから、大好きな人だったから。だから余計厳しく教わったのだと。


涙でぐちゃぐちゃだろう顔で覗き込むと、そこには普段見せない悲痛な、泣きそうな顔があって。こんな人間らしい表情を見たのはいつぶりだろうと思った。


「お、れ…フィディオが執事だからダメって思ったこと、一度もないよ?」

いつも俺のことを考えて動いてくれてたフィディオが誇らしくて、大好きで。ダメって思ったことなんかない。
ぎゅうと背中に回した手に力を込めて言うと、今度はふわりと笑ってくれた。いつものポーカーフェイスより、笑ってる方が絶対いい。


「デモーニオは、俺の誇りだから。」

いつも太陽のように明るい笑顔で、一緒にいるだけで元気になれた。周りの空気が暖かかった。
だから、どんなことをしてでも傍に居たかった。

そう言ったフィディオは「命令だって言われればデモーニオの望みを叶えることが出来るから、嬉しかった」と笑う。その笑顔が綺麗で、ドキリとした。


「…じゃぁさ、一つだけ、俺の命令聞いてくれる?」

首を傾げるようにして言えば、「いいよ」と笑ってくれるフィディオがそこにいて、たったそれだけのことがすごく嬉しかった。


「2人きりの時だけでいいから、フィディオはフィディオでいてよ」

主人だとか執事だとか、そんなの関係ないから。そのままでいてよ。


一瞬驚いたようにきょとんとして、でも直ぐに大好きな笑顔になって「わかった」と頷いてくれた。つられるように俺も笑顔になって。嬉しくて緩みっぱなしになってしまった頬のままフィディオを見つめると、目の前の綺麗な瞳が楽しそうに細められた。


「じゃあ、デモーニオの命令がなくてもこういうことして、いいんだよね」

囁くように言われた言葉の意味を理解しかねて不思議そうな顔をする俺をくつくつと笑いながら、触れるだけのキスをした。




ねぇ、フィディオ。
俺、命令するのはイヤなんだよ。
命令じゃなくて、フィディオの意思で、俺を見てほしいから。



主人と執事の関係性:02


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