@豪鬼


青い空、白い雲。良く晴れた、ある日の放課後。
まさにサッカー日和な外の景色を横目に、俺は、いや、俺たちはペンを片手に身体ではなく頭をフル稼働させていた。

放課後だというのに練習をせずに勉強をしているのには訳がある。一言で言ってしまえば、数日後に迫ったテストの為。
テスト週間は部活は休みで、更にテストで赤点を取った者は補習を受けなくてはならない。勿論、部活は強制的に休まされる。
そんな事態を打破するべく、俺と鬼道、円堂は勉強しているのである。



「サッカーしたいぃぃぃ…」

べしゃりと机に倒れ込んだ円堂に勉強を教えていた鬼道が呆れたように息を吐いた。

「円堂…お前の為にやってるんだぞ。我慢しろ」


そうだ。俺は多少苦手な教科があるものの、赤点を取るようなことはないだろう。鬼道に至っては首位争いをするくらいだ、赤点なんて縁がない。
だが円堂の成績はまぁなんというか、流石サッカー馬鹿といった感じである。


「うー…サッカーしたい…」

机に伏せたまま捨てられた子犬のような目で鬼道を見ていた円堂だが「ここで甘やかしたらダメだ!」とでも思ったのだろう、鬼道は円堂の目を見ないようにしてペンを再度滑らせ始めた。
そんな頑として譲らない鬼道の様子に、円堂も諦めたようにペンを滑らせた………鬼道のノートに。


【サッカーしたい】

ニコニコと何処か得意気に書かれた円堂の希望は、鬼道の手によって一瞬で消し去られた。そばにあった消しゴムを片手に、やはり呆れたように「勉強しろ」と息を吐く。
瞬間、しょんぼりしたように見えた円堂も負けじと再度ノートにペンを滑らせた。さっきよりも大きく書かれた【サッカーしたい】の文字は、すぐに消されて跡形もない。

書いては消されて
書かれては消して

そんな静かな攻防が繰り広げられているのを俺はぼんやりと見ていた。

しばらくすると根負けした鬼道が「休憩するか、」と提案した、とほぼ同時に円堂はサッカーボール片手に駆け出していた。余りにも素早い行動に鬼道と顔を見合わせて笑う。流石サッカー馬鹿だなと。

俺たちも行くか、そう言いながらペンを置くと、静かな攻防が繰り広げられた場所が見えた。そこには【サッカー!】とデカデカと書いてある。


ふと、思いついたようにペンを取る。
先程までの戦場とは少し離れた場所に、ゆっくりとペンを滑らせた。と同時に鬼道が「ちょっ、お前まで人のノートに書くな!」と困ったように言うから、悪戯が成功したかのような気持ちで自然と笑みが零れた。そのまま鬼道の頭にポンと触れると、先に行ってるぞと声をかけて教室を後にする。

後ろで消しゴムが落ちる音が聞こえた、気がした。



―――――……


休憩と言う名のサッカーを終えて帰ってきた俺のノートに書かれていた【俺も】という綺麗な字。考えなくても解る、こんな綺麗な字を書く人物。


視線を感じて顔を上げると、ふいっと顔を逸らされる。逸らした頬はほんのり赤くなっていて、ふっと笑みを零すと静かにノートを閉じた―――



【好き―――】
【―――俺も】



消しゴム片手に愛を語ろう


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