「し」…(銀時)




僅かに聞こえる物音。
大して厚くもない木製の板を隔てた向こう側。
犯人は言うまでもなく。

(ホント懲りないヤツ…)

何時もなら有無を言わさず引きずり下ろして木刀でも叩き込んでやるところだが。
今日に限って、いつだったか本人から聞いた言葉が甦る。

「私に家は無いわ」
「何? お前ホームレスだったの?」
「いや、そうじゃなくて」

一定の場所には留まらず、彼方此方を転々としていると。
これでも始末屋だからねと笑って言っていたけれど。
それはつまり――安心して眠れる場所が無いと言う事じゃないのか?

俺の前に現れる時は大抵笑顔で、そんな物騒な仕事をしているようには到底見えない。
だから、すぐに忘れてしまう。
その裏にある表情(カオ)を。
俺の前では何時だって、弱音を吐かないヤツだから。(ムカつくくらいに)

その代わりが、巡りに巡って不法侵入になるのかも知れない。

…やれやれ。
全く…我ながら要らん事を思い出しちまったもんだ。

「…俺も相当捻くれてるが、お前ェも大概だよ」



仕方ないから、今だけ屋根裏を貸しといてやらぁ。







小休止.



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