部活後、わたしの後ろに回ってきた柳くんが囁くように真田くんの誕生日を教えてくれた。しかも、その日付が今日だというのだから聞いた瞬間わたしはおもわず絶句した。
「どうして教えてくれなかったの?」「別に聞かれたこともないからな」飄々とした顔で爽やかに笑う柳くんにわたしはまた絶句した。なんて意地の悪い男なのだこのキツネ目め。そう心中で悪態を吐いたからといって悪いのは柳くんではない。真田くんの誕生日を知ろうとしなかったわたし自身なのだ。
はあ、息をひとつ吐いて柳くんを見上げる。細められた瞳は楽しそうな色を見せていた。やっぱり彼は意地の悪い人だ。こんな状況を心底楽しんでいる。


「真田くんの欲しいものってなんだとおもう?」
「さあ?少なくとも俺の知るところではないな。直接本人に聞くことを勧めるぞ」


おもった通りの返答をされた。真田くんの欲しいものなんて真田くんに聞いたほうが早いに決まっている。そんなことはわかってる。だけど、やっぱりいきなりあげてびっくりさせたいとおもうのが乙女心ではないのだろうか。そう訴えるれば「お前が乙女心を持ち合わせていたなど以外だな」と返事が返ってくる。このキツネ野郎…。ぎりりときつくにぎりしめた拳は渦中の人である真田くんの声によって緩められた。


「どうしたのだ、ふたりして」
「ああ、こいつが弦一郎に誕生日プレゼントを渡したいというのでな」
「…ッ!ちょ、柳くん?!」
「ほう…、」


涼しさを目元に携える柳くんとこめかみがぴくりと動いた真田くん。ただ見つめ合っている筈なのに何故か『睨み合う』と形容するほうが相応しくおもえるふたりの間でわたしはただ冷や汗を流すしか術がなかった。


「まあ、俺からは以上だ」
「え?柳く…」
「あまり無理を強いるなよ、弦一郎?」
「フン、」
「あの…?え?さ、なだ、くん?」


颯爽と去っていく柳くんの後ろ姿を眺めつつ、呆然とその場に立ち尽くすわたしの両肩に真田くんの大きな掌が乗せられた。
びっくりして視線を上にあげれば、少し熱っぽい真田くんの視線に心臓がドキリと跳ねる。見たこともないその顔に何となくイヤな予感を抱いていれば、腰の辺りに真田くんの腕が絡みついてきた。
待て待て。一体何をする気だ真田弦一郎。わたしの頭上に影を作る端正なその顔に、いよいよ心臓の音は爆音を奏でるのである。


たるんどらん!さまに提出。
(110521)


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