誰かと恋をすることに前向きになれないわたしは、どこかおかしいんだろうか。

誰だれさんが誰だれくんを好きだとか告白したとか、そういう噂を耳にするたびに思うけど、そういう人たちはそうやって片思いしてるうちが花だとは思わないのかな?


「小宮山は保守的じゃの」


いや、保守的ってゆーか…


「だってわたしらまだ子供だし」


つまりそういうことだ。

今誰かを好きになって恋愛をしたってそれが続くなんてありえない、そこで経験したものを持って次に行くだけ。


「結局、踏み台になるだけじゃん」


嫉妬したり、束縛したり、でもやりすぎると逆に失ったり。
好きだって言いすぎてもダメ言わなすぎてもダメで、飽きられないように常に低周波の刺激を欠かさない。そんなの無理に決まってる。


「いずれ別れるって分かってるのになんで付き合ったりするんだろ」


わたしの話を聞きながら困った顔をする仁王に、頭をぽんぽんと撫でられた。


「お前さんはまだ、ちゃんとした恋をしたことがしたことがないから分からないんやの」

「なにそれ、子供扱いとかないんですけど」


わたしのほうが誕生日早いし。
そういうと仁王はそういうとこが子供っぽいなんて言ってきた。


ふんだ、こう見えてもわたしだって何度か相手のいる恋をしたことがあるし、一応するべきことだって一通り経験したもん。
好きでたまらない、いっときも離れたくないとか思ったこともあったし、泣いたり笑ったり忙しく過ごしたことだってある。


「でもみんな半年ももたない」


それは相手からだけではなく、わたしからお別れした人だっていて。

そんなことを繰り返しているうちになんだかバカらしく思えてきただけだ。


「なんでバカらしいんじゃ?」

「なんでって…そんなの決まってるじゃん」


恋をしてはしゃいで、実って嬉しくて頭の中全部がその人になる→でも小さいことで揺さ振られて心が不安定になって楽しいばっかりじゃなくなる→そのうち喧嘩とかするようになって醒めてきて

あっという間に終わりがくる。

いつだってこういうサイクルの繰り返し。
いい加減、わたしだって学習するよ。


「じゃあさ、仁王は好きな人いるの?」

「ああ、いる」


速答でいる、と答えた自信有りげな顔が頭に焼き付いた。


…へえ、いるんだ。
なんか、いや別にいいんだけどね、でもなんか…


「悔しいな」

「ほう」

「仁王は軽そうなイメージだけど、実はそういうの興味ないんじゃないかって勝手に思ってた」

「、は!すごい偏見じゃな」

「だって…」


だって、仁王はなんだかんだ一人でいることが多いし、いつ見ても誰かを目で追ったり恋してますって態度は見せない。

女の子に話し掛けられたりすれば愛想よく答えているけど、その背中は「めんどくせ〜」って言ってるように見えたんだもん。


「…好きだって、言わないの?」

「言わん」

「なんで?」

「それはお前さんが一番わかっとるじゃろ」


いや、分かんないし。

頭にクエスチョンマークを乱発させていたわたしを見て、仁王はふっとまたバカにしたみたいに笑った。


「やっぱり、なるなら最後の男がいいんよ」

「は…?」

「だから卒業まで待つ」



いや、

いやいやいや!

卒業まで待ったって最後の男になれるわけじゃないじゃん!
ってゆーかなに?何この男。こんな風に見えて嫉妬心とか独占欲とか強いとかってこと?


「うそつけ!」

「心外じゃ」

「だって似合わないよ」

「あ、傷ついたぜよ」


笑いながら言われても説得力に欠けますよ詐欺師さん…。


てゆーか傷ついたのはこっちだ。


なんだよ、好きな人いるのかよダメじゃん。
あーあダメじゃん。

卒業式まで好きでいられたら、そしたら未来を信じてみようと思ってたのに。


全然ダメじゃん、ダメダメじゃん!


あーあ、前言撤回。

もう踏み台でもなんでもいい。
こんな踏み台にすらなれないまま終わるよりずっとよかったよ。


わたしなんか所詮、眼中にすらなかったのに。
好きで付き合ってもいつか別れるときが来ることを勝手に恐がって勇気が出なかった上に、惨めにそれの言い訳をしてたわたしはなんて一人よがりのバカなの。


「…帰る」


どうせ最低の負け犬だ。
吠えて帰ってやるさ!

で、家に帰ってどれだけ仁王が好きだったか全部喚き散らしてやる。

明日、腫れた目で登校したって構わない。


あーこんな自分だいっきらい。

もう既に泣きそう…


「バカじゃな〜、小宮山は」

「なんでよ…」

「本当にバカじゃ」


バカじゃバカじゃ大バカじゃ!
仁王は携帯を取り出して、ひかえおろ〜!なんて言い出して。


「これが目に入らぬかー!」


それをバッと開いてわたしの顔面にくっつけた。


「どうじゃ、参ったか」

「…近すぎてなんも見えないんですけど」


睫毛が液晶に当たって気持ち悪い。

もうなんだよ、早く帰らせろよ。わたしは傷心なんだよ、お前のお遊びに付き合ってる暇なんてないんだよ、わかってんのかよお前のせいだぞ、違う自分のせいだ。でももう余裕ないんだよ、ぜーんぶ人のせいにして今は早くひとりになりたいだけなんだよ。


「どうせバカだよ大バカだよ!分かってるよあんたが好きなんだよバカ!死ね!」


全部ぶちまけて目の前の携帯を払おうとしたら、手首を掴まれてふりほどこうにもびくともしない。


「はーなーせー!」

「嫌じゃ」

「もーいーじゃんか!わたしなんかどうせ負け犬だし」

「小宮山が負け犬なら俺もぜよ」


ぎゅっと瞑っていた目を開けたら、おでこがこつんとぶつかった。


「だから言ったじゃろ、これが目に入らぬかって」


開かれたまま奴の手に握られた携帯が光った。

卒業までのカウントダウンとわたしの横顔が映っている。


「ぎあー!なにこれ!」

「好きじゃバカ、気付け」


いきなり詰められたふたりの距離は、熱い唇でひとつになった。









(仁王のバカ…!)
(バカっていうほうがバカなんじゃよ)





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