あーどうしてわたしはこの人と別々に生まれてきてしまったんだろう。
生まれるときから一緒なら、今こんな気持ちにならなくて済んだかもしれない。

こんなことを本気で考え始めてる自分が怖いわ。
いつか取り返しの付かないことをしてしまいそうだもの。


「どうしたん?浮かない顔やな」


優しい瞳がゆれるのを見て、快感を覚えてしまうの。
もう放っておいてよって言えないのはどうしてなのかしら、わたしの根性なし!

そもそも不幸の始まりは、世にも優しい、優しすぎる人に恋をしてしまったことからね。
それも初めての恋。わたしには少しハードルが高すぎたみたい。


優しい彼氏なんて求めてなかったと気付いたのも遅すぎた。
いつだってそう、いつも大事なことは後から分かるの。


「ほんま可愛いなぁ」


馴々しい手つきで、子供をあやすみたいに撫でるのはやめて。

どんどん嫌な女になっていく自分が怖いのよ。
…侑士が隣にいるだけで、わたしのバランスはどんどん崩れていってしまうけど、そんな自分が怖くて愛しい。


「侑士は、わたしのことが好きなの?」

「当たり前やん、他の子とは一切連絡も取ってへん」

「でもこの前、隣のクラスの松田さんと楽しそうに話してた」

「見てたんか…でもあれは別に何もないねんで?」


そんなことは分かってるの。
疑ってるわけじゃない。

でも嫌なんだって言ったら、侑士はまた一人友達を切り捨ててしまうんでしょう?
今までもそうやってわたしが彼の生活を奪ってきてしまったんだもの。

一人きりでいることが多くなった侑士。
わたしの望みを叶えるために、色んなものを捨ててしまった彼にわたしはこれ以上なにを失わせれば満足なんだろう。


足りない足りない足りない。

どんなに何を奪っても、それは決してわたしを満たしはしないのに。


「好きやで」

比奈が一番。

そうして抱き寄せられたとき、わたしの頬を一筋の涙が伝ったこと、貴方はきっと知らないね。


このまま二人で海に沈んでしまいたい

重しを付けて、どこまでも深く






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