「ねーボスー、ねーってばぁ!」
「……」
「そんなワイングラスなんか置いてあたしの相談に乗ってよー」
「……」
ねーってば、ねー!と腕を揺らすと無言でめっちゃ睨まれた!
こわっ!てかマジこわっ!!
もうボスったら、あたしの一世一代の大博打だっていうのにその態度はあんまりじゃないの?
「バカー!ボスなんかツナっちにまたボコボコにされちゃえばいいんだ」
「…おい、」
いい加減にしねぇと、殺すぞ。
「ふんだ、そんな脅し怖くないもんね!だからぁ、話を聞いてよー」
「…はぁ」
ボスは依然としてワイングラスを片手にベートーベンを聴いてるだけ。
「スクアーロはどんな子が好きか教えてよー」
「…あのクソ鮫のことなんか知るか!」
「そんなこと言わないでー!付き合い長いんだから、今までの彼女とか知ってるでしょー?」
「……」
今日はスクアーロが遠征から帰ってくる日。
もう早く抱きつきたいし、触りたくてたまらない。
でもあたしがそうすると、彼はいつもすごい引きつった顔をして跳ねとばしてくる。
早くあの腕で抱き締め返してほしいのに…きっとあたしがスクアーロのタイプじゃないから受けとめてくれないんだ。
「スクアーロに抱っこして、ちゅうしてほしいんだよー!」
「てめぇ…」
ガタッと席を立ったボス。
わ、ぶたれる!と思ったら、ひょいと首根っこを掴まれてポイと外に捨てられた。
「うわーん!ボスの人でなしー!!」
くすん、もういいもん!ボスには頼らないよっ!でも…
「ベルはいないし…ルッスも忙しそうだったしな」
「う゛お゛お゛ぉ゛い!今帰ったぞぉ」
「え…!」
ボスの部屋の前で思案すること数分、待ち焦がれていた人の声がして心臓が飛び跳ねた。
つーか予定より早すぎないっ!?
何にも考えがまとまってないし、これからってときになんで?
「あぁ゛?そこにいる奴は比奈かぁ」
「う、うわ!」
「んなとこつっ立って何してやがんだぁ」
「え、えっとぉ…あ!ほら、ラジオ体操!いっちにいっちに!」
一緒にやる?
って違う!
おかえりとか早かったねとか、言わなきゃいけないことがなんにも出てきやしない…!
「ふ、変わってねぇなぁてめえは」
「そっちこそ…」
いかんいかん、突然のことに動揺したけどせっかく早く帰ってきてくれたんだもん!ここでバシッと決めなきゃ女が廃るってもんでしょう?
「スクアーロ聞いて!」
「な、なんだぁいきなり!?」
「あのね、すき!」
「んな…っ!」
よくよく考えてみればいきなりすぎだし、きょどってたくせに何を言ってんだって感じだけど、生憎あたしには直球しか投げれない。
あたしの大告白を聞いて、わなわな震えながらあたしから距離をとろうとするスクアーロにどしどし大股で近づいてその髪を引っ張った。
「は、離せぇえ!!」
「やだ!あたしずっとスクアーロ好きだったもん!」
伝わってなかったなんて言わせない。
「そりゃあたしはスクアーロのタイプじゃないんだろうし、別に特別可愛いってわけでもないけど!…って言いながらもう悲しくなっちゃったし!」
とにかくそれぐらいスクアーロが好きなの!
泣きそうになるのを堪えながら、ぎゅっとその背中に腕を回して力を込めた。
「な、わ、わかった…!わかったから離れやがれぇ!」
「やだぁ!」
絶対離れてやるもんかって更に強く抱きついてみたけど、スクアーロはあたしの首根っ子を掴んでいつもみたいにいともたやすくひっぺがしてきた。
「うわーん…!スクアーロはやっぱりあたしなんか嫌いなんだぁ!」
すごい勢いでズサッと後ろへ跳んだスクアーロ。
斜め下辺りを見ているのか髪がかかってその表情はよく見えない。
「…なんでこうなるんだぁ」
「う、ひっく…うぅ」
「こ、これやるからもう泣くなぁ!」
ほらよぉ、と投げて寄越されたもの。
「キャラメル…?」
「…、」
あれ、スクアーロってこういうの好きだったっけ?
あんまり甘いものを食べてるとこは見たことないけどな…
「食べていいの?」
「…てめえへの土産だぁ、好きにしろ」
パチ
やっと顔を上げたスクアーロと正面から目が合ってしまった。
「あ…!」
「…俺は別にお前が嫌いなわけじゃねぇ」
むしろ、と言い掛けてばつが悪そうに舌打ちをする姿にあたしはすっかり頭が空っぽになってしまった。
だって
「スクアーロ、顔赤いよ…?」
「う、うるせぇぞぉ!」
(くっつかれて困るのは意識してるからに決まってんだろぉが…)
(もしかしてこれって、脈あり!?)
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