今は数学担当である竜崎先生の授業。理数系は得意だから多少授業を聞いていなくても問題ない。数学のノートの下に隠して練習メニューを書きこんでるノートを眺める。 自分の実力を慢心していたのか。後輩に負けるというのはここまで悔しく、そしてプライドが傷付けられるものなのかと思った。地区大会と都大会はサポートに回ることになってしまったが、関東大会には必ずレギュラーに戻ってみせる。その為には自身のトレーニングメニューの見直しとデータの強化、そして自分だけでなく部員たちのバックアップ。やることが盛りだくさんだ。 メニューにいくつかトレーニングを書き加えてノートを閉じた。授業はあと10分ほどで終わる。仮にも授業中、一応黒板の数式を書いておくかと今度は数学のノートに向き合ったところで胸ポケットに入れているスマホが震えた。振動の短さからしてメールではなくメッセージアプリから何か届いたようだ。スマホを抜き取って机の下に隠し電源ボタンを押した。 -------------------- 名字 名前 -------------------- 放課後時間ある?ちょっとお話ししよ -------------------- 「(…名字さん?珍しいな)」 それはクラスメイトの名字さんからで、放課後に話がしたいとの内容だった。同じ学園祭実行委員になったのを機に連絡先を交換したのだが、彼女からメッセージが届くのはこれが初めてだった。 俺の席から机を一列挟んだ向こうの左斜め前へ座る彼女を見やると、控えめに顔を後ろへ向けて俺を見ていて視線がかち合うと目を細めて口角を緩やかに上げて笑った。 「(…なんだ?)」 彼女とは別段仲が良いということはなく、顔を合わせれば挨拶をするくらいの関係だ。同じクラスになったのも今年が初めてだから、彼女のデータはあまり持っていない。急にコンタクトを取ってきたのを不思議に思いながら合わせていた視線を外しスマホを操作した。今日は部活が休みだから早々に家に帰ってトレーニングをと考えていたが多少なら構わない。手短に分かった、とだけ返信するとすぐに既読マークが付いて喜びを表すように忙しなく動くクマのスタンプが送られてきた。周囲の女子より大人びた雰囲気の彼女がそんなスタンプを送ってきたことに少し驚く。もう一度彼女に視線を戻すと、もう前を向いていて目は合わなかった。 2018.01 |