「流川くん、おはよう」 「うす」 下駄箱で流川くんを見つけたので声を掛けた。スポーツバッグを背負った彼に対して、私はギターケースを背負っていた。バスケット部の彼と軽音部の私は同じクラスという接点だけで繋がっている。一緒に教室行こう、と誘うと一言「うす」と返事をして私の隣に並んだ。 「今日、小池の授業小テストだよ」 「…知らん」 「そんな聞いてないみたいな顔されても」 教室へ向かう廊下、歩く度にギターケースのショルダーがずりずりと下がってくるので、こまめに背負い直す。横目にそれを見ていた流川くんが口を開いた。 「それ、最近いつも背負ってる」 「え?うん、部活と文化祭の練習で使うからね」 「重くねーの」 「うーん、5キロくらいかな?もう慣れちゃったよ」 重いことには重いのだけど、毎日背負っていればその感覚も慣れてくるものだ。 「持ってやる」 ん、と片手を私の方へ差し出してギターを要求してくる。どういう風の吹き回し?そんなに重そうに見えたのだろうか。 「えっ大丈夫だよこれくらい」 「いいから」 何故だか頑なな流川くんに押されて、おずおずとギターを下ろして流川くんに渡した。グイッと持ち上げて肩にかける。片側にスポーツバッグ、反対側に私のギターを背負った流川くんはあっという間に大荷物だ。 「重くない?」 「平気、これくらい」 「普段バスケットボールしか持たない流川くんには重いでしょ」 「…そんなことない」 私の軽口にムッとした表情をする。流川くんは案外気持ちを顔に出す方だと思う。 「でも楽になった、ありがと流川くん」 「ん」 「文化祭近いでしょ、ここのところ毎日遅くまで練習なんだ」 「ふーん」 「頑張って弾くから、良かったら見に来てね」 「…気が向いたら」 「うん」 自分の演奏で流川くんに楽しんでもらえたら最高だ。そう思って二コリと笑顔を向けた。 「じゃあ」 「うん?」 教室に着いたので扉に手をかけたところで流川くんが話し始めたので手を止めた。流川くんを見ると、ちょっと下に視線を向けていて、目線は合わなかった。 「今度練習試合あるから、お前来い」 「…え、練習試合?」 コクリ、と頷いた流川くん。文化祭の演奏を見に行ってやるから、代わりにお前は練習試合を見に来い、と… 「えーでも、私バスケ全然分かんないよ?」 「俺だってギターはよく分からん」 「ギターは聴いてるだけで面白いよ?」 「バスケだって見るだけでも………やる方が楽しいけど」 「ははは」 でも折角誘ってくれたんだから、行こうかな。たくさんの女の子が夢中になっちゃう流川くんのプレー、1回くらい見てみたいかも。 「分かった、じゃあ見に行くね」 「うす」 これでギターの練習にも精が出るな、そう思いながら教室の扉を引いた。 2017.02/15 彼との距離が近付く朝/SDワンライ提出作品 |