おれたちの親愛なる王


「またあの人達来てるの?」

くぐもった声が政宗の鼓膜を揺らす。
振り返ってみれば、口当てをした常と変らない男が立っていた。

「うるせえか?」
「そうだね」

うん。うるさい。
そう言って男は政宗に近付くと、同じように縁側へ腰を下ろした。

「最近よく来るよね。……何で?」
「奥州に興味があるかららしいぜ」

うそだ。
その言葉は音にされることなく成実の胸に籠った。

(本当は梵に興味があって来てるんだよ?)

そこのとこ、分かんないかなぁ。

横目で政宗を見るけれどすぐに逸らしてため息をついた。
となりに居る竜は史上最強に鈍いに違いない。
美しい肢体を持ち、激しい嬢を映す瞳に、鋭利な六爪で君臨する奥州王・伊達政宗。
独眼竜の渾名に違わず、隻眼である彼だが、そんなもの引き立て役にしてしまえる程に彼は美しい。
その美しさに心惹かれるのは自分だけではないようで。
今では西国の瀬戸内の武将二人まで届いている。
そんな彼の元へ、今日も今日とて客足は尽きぬようである。

「ねえ梵。彼らと過ごすのは楽しい?」

そしてその客足に比例して――否、それを上回り大きな不安が募っていく。

「あの人達と一緒に行きたい?」

いつか、美しい両翼でこの地を飛び去ってしまうのではないかと、恐れは強まるばかりだ。

「what ?何言ってんだ」

涼やかな声が成実の胸を震わせる。
耳に響く声は心地よく、優しい。
そして僅かに甘い。

「成実。……いや、時宗丸。オレは奥州のkingだ。それなのに民を置いて、大事な仲間を置いて、どこに行くって言うんだ? You know ?」

なんの戸惑いもなく不安を否定した言葉に、成実は目を閉じた。

「その言葉。信じていい?」
「I will be natural. 当然だろ」

俺の不安を吹き飛ばしてくれる言葉に、目を開けた。

「本当だね?嘘だったりしない?」
「しつけぇぞ」
「そっか。…それを聞いて安心したよ。それじゃ俺はもう寝るかな」
「そうかい。Good night 」
「おやすみ。梵」

にっこりと梵に向かって笑んで、背中を向けた。
後ろで梵が彼らに呼ばれているのが聞こえる。
でももう、不安はない。

『どこに行くっていうんだ?』

口角を挙げて密かに笑う。

(そう言ってくれてよかった)

もし、もしも梵が不安を確信に変えてしまっていたら、

残った濃蒼色の目を取り、両手両足を切断して、翼も何もかも折って、

奥州の奥の奥に閉じ込めてしまう。

「ねえ梵天丸――いや、政宗。どうかこのまま、この奥州を愛していて」

俺達だけの美しい王。






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