ねえ、ねえ。蒼い花


ひやり、と冷気を漂わせて――否、ここは場所自体が凍える程の寒さだ。かすがは身を震わせた。
表面にうっすらと霜を付けた氷の柱は、ひとつの蒼を閉じ込めている。
白い吐息を吐き出しながら、かすがは震える指で氷を撫でた。
薄い闇の中、その蒼が光を放っているかのように辺りはぼんやりと明るい。

「………」

かすがの声は、氷柱から溢れだす清冽な冷気に留められて、喉本で凍った。
指の熱が氷の表面を溶かし、その水分が氷によって凍らされて指先がひりひりと痛みながら吸いついている。
その痛みに、冷たさに、かすがはうっすらとその瞳を潤ませた。
苦無を一つ取りだしてその氷柱へ思うがままに突き立てる。
がり、と刃が氷に喰い込んだ。
だがそれは、僅かに上辺が削り落ちるだけに留まった。
はあはあとかすがは込み上げてくる篤さと苦しさに、何度も息を吐きだした。

「申し訳ありません、申し訳ありません、謙信様」

その謝罪は止まらない。
氷を削ろうと、壊そうとする腕の力は強まるばかり。

謙信様、謙信様、

かすがの声は小さくこの地下に吸い込まれた。
幾度も傷付けた氷はそれでも、ほんの僅かしか削れていない。
そのことにとうとう頬に滴が零れた。
華奢な美しい手から苦無が零れ落ち、縋りつくようにかすがは氷柱へ頬を寄せた。

「独眼竜…っ!」

美しい彼を氷漬けにした美しい主。
敬愛してやまない主への最初で最後の裏切り。
傷付けられた氷は不思議な事に再生し始めている。
そしてそれはかすがさえも呑みこもうと手へ頬へ伸びていた。
その冷たさに気付きながら、かすがはぼんやりと思う。

このまま氷漬けになってもいい。
美しい彼が傍に居る。
美しい主の氷で眠る事が出来る。
かすがの涙は止まらない。
かすがはうっとりと眼を閉じた。




「…おや、わたくしのうつくしきつるぎがたけだけしきりゅうとともにねむっている」

うつくしい、と謙信は呟いた。
そして独眼竜の後ろの、もうひとつの氷の柱へ視線を巡らせた。

「………たけだけしきりゅうのみぎめ、そなたもこのうつくしさをわかってくれるでしょう」

うつくしい竜と、うつくしい剣と、竜を守って来たただ一つの右目。
それらの美しさに魅入られるように、謙信の瞳は冥暗を覗かせて細められた。





あとがきと言う名のいいわけ↓

政宗←かすが→謙信、謙信→政宗
ふたりを愛してしまったかすがの苦悩と、政宗を氷漬けにして愛でるヤンデレ謙信。
ごめんなさい。
書いてみたらめちゃくちゃ意味分かんないし暗い。
氷漬けの筆頭ってなんかいいよねって思ったのがいけなかったのか?

最近水牢で監禁されている筆頭の妄想が激しい。
両手両足にそれぞれ枷が嵌めてあって鎖につながれているといい。
監禁者は…毛利かな。
就政好きだよ大好きだよちくしょう。





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