笑っているのが一番だから。


孫→鶴→小太→政宗


鈴を転がすような声がすぐそばで自分に語りかけている。
顔の横で綺麗に切り揃えられた髪がさらりさらりと揺れた。
陽の光を浴び、美しい光沢を作り出す様をうっとりと眺めていた孫市は名を呼ばれてはっとした。

「孫市ねえさまっ!聞いていますか!?」

鶴姫は淡く桃色に染まっている頬をぷっくりとさせていた。
年相応な姿に思わず口元がほころぶけれど、姫はお気に召さなかったらしい。
ますます頬がふくれていた。

「もうっ!」
「すまない。今度はきちんと聞くから、続けてくれ」

怒っている顔も愛らしいが、やはり彼女は笑っているのが一等愛らしいと思う。
眉尻を下げて言えば、「しょうがないですねっ!」と言って、語り始めてくれた。
とても愛らしい、恋をする少女そのものの顔で。
正直、羨ましいと思う。
彼女にここまで想われるあの忍びが。
だがその忍びにも、想う人間がいることを孫市は知っていた。

孫市は、それを教えようとは思わない。


――風魔、あの竜がお前を振り向く事などないぞ

前にそう言ってみたが、忍びは緩く首を振った。
想いを伝える事など、最初から考えては

いないのだと、孫市は初めて忍びの想いを聞いた気がした。


認めたくはないが、孫市は自分も同じ性質なのだと知った。
あの忍びが焦がれる竜は振り向きもしない。
目の前の愛らしい姫御前も己に振り向く事はない。

だがしかし、誰かを思う気持ちなどそう簡単に無くなる訳じゃないから。

「鶴姫」
「はい?」

この瞳に自分が映っている事に酷く心がざわつく。

「幸せそうだな」

そう言えば、力いっぱい肯定する姫に、苦笑がこぼれた。
ああ、重症だ。

「そうか、ならばいい」

貴方が笑っているのならば、私は傍で貴方を守ろう。
傍に居られるだけでいい。



あなたが、






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