おまえを寄こせ。



いいかげん、堪忍袋の緒が切れると思う。
人生で初めて恋に落ち、褒めて宥めて賺(すか)して時に脅し、ようやく手に入れたと思った恋人は現在、

「政宗―。今日俺んち来るだろ?」
「おー行く行く。あのラスボス倒すまで付き合えよ」

能天気で筋肉が脳まで浸食している下らぬ長曾我部と談笑中。
おのれ政宗。あれ程我以外に笑いかけるなと言ったであろう…!!
長曾我部の魔の手に絡まれている政宗を救出すべく席を立った我は、国語辞典(箱カバー付き)を片手に歩み寄った。
そしておもむろに白髪頭に二発。

「いでぇっ!!!」
「失せよ長曾我部!政宗にべたべたとくっつくでない!!」
「毛利?」

政宗も政宗だ。
我という文句のつけどころのない恋人がいるにもかかわらず……!
そもそも政宗に我と付き合っている自覚が本当にあるのだろうか!?
確かに了承の言葉は聞いたはずぞ!

そうだというのに、政宗はまるで態度が変わらない。
放課後まで苛々した気持ちを隠しもせずに抱えたまま、SHRが終わった途端政宗の腕を掴んだ。

「Ah?」
「帰るぞ」

短く、また有無を言わせぬ声音で政宗の腕を引く。
慌てて鞄を掴む政宗を視界の端に捕らえた。


     ******


「なあ、何怒ってんだよ?」
「怒ってなどいない」
「怒ってんじゃねえか」

手をつなぎながら先を行く元就に政宗が不服そうに頬を僅か膨らましながら、後を追う。
そしてとっくりと観察した。
思った以上に高い背丈、華奢とも言える細い背中。
開いている左手の指先で、僅かに触れた。
それに気がついたのか、振り返った元就に政宗は悪戯っ子の様な笑みを浮かべる。
再び前を向いた毛利に、また不服そうな顔をする。
だが元来気分屋のきらいがある政宗は笑みを浮かべると、元就の隣へ歩を進める。

「ホントに怒ってねぇんだな?」
「……ああ」

ちらりと横目で見る元就に政宗は笑顔を返す。

「……あ、なあもうすぐChristmasだけどよ。なんか欲しいもんとかあるか?」
「欲しいもの?」
「出来る限り用意するぜ」

指同士が絡み合い、恋人のそれへと変わるつなぎ方に毛利は知らず目を細めた。

「…では、手料理を作れ」
「手料理?」
「我の家で、我だけのために、だ。その他はいらぬ」
「……了解」
「それと、」
「まだあんのかよ」

繋いでいる手を引き寄せて、政宗の腰に元就の華奢な腕が回る。

「夜は、伊達政宗を寄こせ」
「!」

驚く間もなく、元就の唇が政宗のそれへと重なった。

「おっま、外だぞ!」
「誰もいない」
「そう言う問題じゃねえよ!」

ひとしきり文句を言い終わったのか、政宗は脱力するように元就の胸へと凭れた。
思いがけない触れ合いに元就が妙な気恥かしさと満足感に浸っていると、くぐもった声で政宗が呟いた。

――なら、オレには毛利元就を寄こせ

「………ふん。よかろう」

二人の頬は赤い。
寒さのせいだと割り切って、二人は同時に顔を振った。
そして視線が重なる。
政宗は同じ轍は踏まないとばかりに勢いよく手を引いて歩き出した。
蹈鞴を踏むように歩き出した元就は拍子抜けだと言わんばかりに深く溜息をつく。

(まあ、よいか。これからじっくり自覚させればよい)

調教のし甲斐があると、含み笑いを浮かべながらぎゅっと政宗の手を包んだ。




篁様、遅くなってしまい申し訳ありません。
そして若干出遅れたイベントで…。
こんな駄分でよければお持ち帰りください。
煮ても焼いても結構でございます。





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