特別なもの




手に入れたくとも、手に入らないものがこの世にあるのだ、と最近知った。
なにせ、今までは全てを(それこそ、領土も駒も富もすべて、を)手に入れてきたのに。

どうしても手に入らないものが、一つ。



「…おい、」


「………」


「、貴様…」



どんなに呼びかけても此方を向こうとしないのは。
奥州筆頭独眼竜、伊達政宗。
隻眼の、酷く美しい蒼き武将。

ただ、純粋に、美しいと思った。


先の戦で見やって以来、蒼が脳裏にこびりついて離れない。
放っておけばおくだけ訳の分からない焦燥感に襲われて。
仕方なし、こうして奥州に来るようになった。

が、どうやら機嫌を損ねてしまったらしく、一向に此方を向く気配はない。



「おい、きさ、」


「…my name is not it…」


「、は?」



やっと此方を向いたかと思ったら。
その口から出たのは流暢な南蛮語。
独眼竜は酷くむくれた顔で此方を見据えていた。

勿論、南蛮語もその理由も我が分かる筈もない。


「……なんだ」


「…俺の名はおい、でも貴様、でもねぇ」



当たり前だ、と言おうとしたが、独眼竜の言わんとしていることが読み取れず口を閉ざす。
独眼竜はすこし隻眼を伏せ、溜息を吐いた。



「…俺の名は知ってるだろ」


「ああ」


「……じゃあそれで呼べ」



不機嫌を張り付けたような表情で言われれば。
それに従う他ないだろう。

名を呼ばなかった事によって知らず知らず彼の人の自尊心が傷つけられてしまったのかも知れない。
竜の自尊心はとても高い故。



「すまなかったな、伊達」


「…hum」



さして興味もなさそうに鼻を鳴らす。
機嫌は直ったようなので良しとしよう。

――――――が、しかし。

我にもできぬことがあるのだな、と酷く他人事な思考でそう思った。


特別なもの

何故だかは分からない、が。
独眼竜の、伊達の名を呼ぶのに。
微かな抵抗を覚えたのだ。




卯の花を運営されている藍紫さまの20000hit企画で私がリクエストさせていただいたお話です。

藍紫さま、素敵な小説を有難うございます。
遅くなりましたが、20000hitおめでとうございます。






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