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※13コペイカを運営されていたラーメンライス様の許可を得て、展示いたします。 毛利元就が奥州・独眼竜の元へ来てから数日。政宗の機嫌は悪かった。 というのも、城にもすっかり慣れた元就が、もはや引っ切り無しに政宗の邪魔をしているのであった。本人には邪魔をしているという感覚はまるでなく、むしろ命令である。 「碁の相手をせよ」「我を街へ連れだせ」「少し疲れた。我に膝枕せよ」等々、政宗に命令しては邪魔をするのだった。 とは言え、元就が暇で仕方ないのは無理もなかった。用意周到な元就は、安芸に残してきた家臣に指南書を作り、それがあらゆる状況を想定した完璧なものであったので、奥州に来てから元就に届く文は至極平和なものであった。 しかしそう長く城を空けておれず、出立の日が近付いていた元就はさらに遠慮が無くなり、見かねた小十郎と喧嘩する事もしばしばであった。 そして今日も元就は少しでも政宗と過ごさねばならぬと急いでいた。 「いつまで寝ておる!さっさと起きよ!」 必死に伊達の家臣が止めたのだろう、喧騒の後、元就が政宗の部屋へと乗り込んできた。 元就は待ちくたびれたというように容赦なく政宗の布団を引っ張り、まだぼうっとして目も開かない竜に頬を染めながら、早く起きろと急かした。 「我はまだ何も口にしておらぬぞ!」 政宗と朝げを食べようとしていたが、なかなか起きて来ない事にしびれを切らしていた。 しかし一方の政宗も叩き起こされて黙ってはいない。 のそりと起き上がり、まだ目も開けられず手探りで元就を探すと、それに気付いた元就は頬を染めうろたえながらも、自分の位置を示す為政宗の手を取った。 政宗は元就の手を伝い、腕から肩、胸を確かめるように触れて行き、その間元就は酷く動揺しつつも胸を高鳴らせ、政宗の手がついに両頬を包むと息が震えた。 分かった、というように政宗が元就の顔を包むと、驚くほどの力でがっしりと掴んだ。 (…こ、こやつ…朝からそのような…!) 「フ、フン!良きに計らうがいい」 目を閉じたままの政宗を正面に、ましてや頬を両手で包まれ、元就は期待を胸にその瞬間を待った。 「──ぐおぉッ!?」 次の瞬間、ごつッという鈍い音が部屋に響き、政宗の頭突きをまともに受けた元就はその場に伸び、政宗はニヤリと笑みを浮かべ立ち上がった。 「待たせたなァ。起きたぜ」 伸びている元就を上機嫌で見おろした。それを見ていた家臣は、さすが筆頭と思わず拳を握り締めていた。 「…貴様…我に無礼ぞ!家臣ならば即刻首を刎ね、一族もろとも消し去っておる!」 額を赤く腫らせながら、元就は書状に目を通している政宗の背中を睨み付けた。眉間にしわを寄せ、腹立たしい事この上ないというようであった。 「Ha,当たり前の結果ってやつだ」 一方の政宗も邪魔くさそうに言いながら筆を入れ、元就の文句を聞き流していた。 この元就という妙な男は、他にする事が本当に無いのかと政宗は思った。書物を読むわけでもなく、街に連れ出せと言うが、いざ連れ出しても何か欲しいと言うわけでもない。 「…アンタ、趣味とか無ェのか。アンタが好んで何かをやっているところなんざ、見たこと無ェな」 「フン。我は毛利家を再び栄光に輝かせるが使命。貴様のように煙なんぞだのと時を無駄にせぬわ」 「チッ…つまらねェ…」 無駄な事を聞いてしまった、というように政宗は再び書状へ目を落とした。 それから沈黙が続いた。政宗は黙々と政務を続け、こちらをちらとも見ない。 元就は無性に政宗の顔が見たくなった。 「おい、貴様…こちらを向け」 「アンタが大人しくしてたらな」 元就はムッとした表情を浮かべたが、やがて政宗の背に己の背を預けて座った。 「おい──」 「こちらを向かぬなら、向くまでこうしておる」 「Ha!とんだ客人だな」 しかしその言葉に元就は嘲笑を浮かべた。 「愚かな。我は貴様の客人などではない」 わずかに頬が染まっている元就の顔など、背中越しでは分からなかったが、政宗は密かにニヤと笑みを浮かべた。 「……こうしておる間もあとわずかぞ。我と過ごすがよい」 「ヘェ…アンタ寂しいのか?」 珍しそうに政宗が尋ねた。 しかし元就はフンと鼻で笑い飛ばした。 「我が安芸へ戻り、この城を攻め落とし貴様を下すまでの間…貴様が我の視界から外れるは許せぬ」 不敵な笑みを浮かべる政宗の一方で、対する元就は傲慢な笑みを浮かべていた。 「貴様を手に入れるなぞ、我の策をもってすれば造作もないわ」 「Ha!独眼竜をナメんなよ…」 背を向けたまま言い合い、再び沈黙が訪れた。 「……さっさと終わらせよ。我と庭へ行け」 こうしているのも悪くは無い心地ではあるが、やはり元就はその隻眼を見ているのを好んだ。 ← |